事件ファイル No.7-2

女子大生飛び降り事件・前編

「お前なぁ~」

呆れた表情と声でシーニーが見ている。
今の時間なら誰も来ないから、と
バルコニーで性の発散に勤しんでいる所を
思い切り彼に見られてしまった。
ブツブツ文句を言いながら
身支度を整えると、ロッソは椅子に座り直した。

「自室でしろや。阿呆アホか」
「此処が一番近かったんだよ。
 部屋はほら、ベルデが来るかも知れねぇし」
「ならそのまま抱きゃぇやろが」
五月蠅うるせぇ。何処どこで抜こうが俺の勝手だ」
「開き直んな。子供ガキか、お前?」
「…少し、子供ガキに戻ってんのかも」
「成程……」

シーニーがおもむろに煙草を取り出す。
ロッソにやる素振りは見せず、
そのまま一本を口に咥え火を点けた。

「俺のは?」
子供ガキにはまだ早い」
「それ、35歳のオッサンに向かって言う台詞か?
 確かお前の方が若いんだったよな?」
「俺はあのまま生きてりゃ今頃は45歳やからな。
 この間、誕生日迎えて
 本来なら39歳になったお前よりは年上や」
「そんなに年食ってたのか」
「まぁな。肉体は28歳時で止まっとるけど」
「分かんねぇもんだ……」

ロッソはそう呟いて夜空を見上げた。

「あのまま生きてりゃ、
 どうなってたんだろうな?」
「…まぁ、お前とこうして話す事は
 一度も無かったやろう」
「そうなのか?」
「一介のシェフと話す機会なんか無いわ」
「お前、生前 【何屋】だったんだよ?」

苦笑いのロッソに対して
一瞬だがシーニーは真顔になった。

「?」
「【公安】や」
「?! ……マジか」
「あぁ」
「成程な…。
 だから志穂の事件の【裏】にも
 直ぐに気付いたって訳かい」
「深追いし過ぎて死んだ辺りは
 お前と全く同じやけどな」
「ざまぁねぇな、お互いに」
「ほんまや。とんだお笑い草やで」

視線を合わせる事無く
二人の男はそのまま無言の時間を過ごす。

いずれは教えろよ」
「何をや」
「お前の【過去】だよ」
「……」
「俺ばっかってのはしょうに合わん」
「…考えとくわ」
「前向きにな」
「それも含めて」

先程と変わらず視線は交わらないが
二人は同じタイミングで苦笑を浮かべた。

* * * * * *

「何してるの?」

風呂上がりのバスローブ姿で
ベルデがバルコニーに姿を見せた。
どうやらロッソを探しに来たらしい。

「湯冷めするで、ベルデ」
「大丈夫よ。暖かくなったし」
「まぁ…ロッソに温めてもろたらぇかな?
 …いや、此奴コイツを丸洗いする方が先か」
「五月蠅ぇ、シーニー」
「?」
「済まんけどベルデ。
 もう一回風呂入ってくれへん?
 ロッソと一緒に」
やかましいっ!!」
「??」

先程迄の遣り取りを知らないベルデは
不思議そうに二人の男の顔を交互に眺めていた。
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