事件ファイル No.7-10

女子大生飛び降り事件・前編

ベルデと花菜子はその後も頻繁に会う様になった。
最初に会った頃とは表情が全く違う。
彼女の家にも招待される様になり
【Memento Mori】のメンバー達は
束の間の平和な時間を堪能していた。

そして、その中には珍しく
シーニーの姿も在った。

「どう云う風の吹き回しだろ?」

ベルデは素朴な疑問を口にする。

「人そのものに関心の薄いシーニーが、ねぇ」
「ロッソ、それは幾ら何でも言い過ぎじゃ?」
「事実だぞ、阿佐」
「シーニーさんなりの考えが有るんでしょ。
 ねぇ、ゲール君?」
「(妙子さんの言う通り!)」
「なぁ、妙子」
「何?」
「何でゲールや阿佐は【くん】付けで
 シーニーだけ【さん】付け呼びなんだ?」
「だって、年長者に見えるんだもん」
「……納得した」

以前ロッソが聞いた年齢が確かであれば
この中で最年長は間違い無くシーニーだ。

「シーニーが花菜子ちゃんを気に入ったんだったら
 何も問題無いんだもんね!」
「そりゃそうだよ。
 シーニーも漸く、可愛い女の子に目覚めたか!」
「…年齢差を考えると怖いけど」
「アンタが言うな、ロッソっ!!」

他の面子と違い、ロッソだけは素直に喜べずにいる。
あのシーニーである。
何か深い事情を隠しているに違いない。

『或いは…疑いが有るからこそ、距離を縮める必要が?』
「そりゃお前の考え過ぎ」
「?! シーニー…」

背後からいきなり現れたシーニーに驚き
ロッソは椅子から落ちそうになった。

「驚かせるなよ。悪趣味な奴」
「俺かて普通の成人男子やで?
 年頃のに興味位持つわ。
 彼女、ロシア文学専攻やって言ってたし
 そう云うので話が合うねん」
「そう言えば…。シーニーさんの名前って……」
「そうやで。ロシア語から来とる」
「確か、『青色』だっけ?」
「そうそう。俺、青色好きやし」

シーニーはニコニコとしながら話を進めている。
確かに、不審な点は見当たらない。
ベルデに頼んで心の中を覗いてもらおうと思ったが
ロッソの考えは
多分シーニーには既に筒抜けなのだろう。
彼はベルデを会話に引き込んでいるので
ロッソの入り込む余地が無いのだ。

= 一本取られたね、ロッソ =

ゲールが精神感応テレパシーでロッソにエールを送ってきた。

= サンキュー =
= シーニーの事は、確かに怪しいと思うかもだけど =
= え? お前もか、ゲール? =
= 少し位はね。でも、疑ってもキリが無いし。
 それに、秘密主義なのはシーニーの本質だから =
= 言われてみりゃその通りだな =
= 僕は花菜子ちゃんが悲しまなければそれで良いよ =
= …そうだな。
 俺も、その所為でベルデに泣かれたら堪らん =
= 優しいね、ロッソは。
 そう云うロッソ、大好きだよ! =
= お…おぅ。ありがとうな、ゲール =

ストレートなゲールの表現には
毎度面食らうロッソなのであった。
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