事件ファイル No.7-9

女子大生飛び降り事件・前編

「お。まだ、残ってた」

20時15分。
店を出たと思われていたロッソが
一人だけ戻って来た。

「あれ? どうしたの?」
「巻いて来た」
「え? 置いてきちゃったの?」
「阿佐とその愉快な仲間達に託したよ」

そう言って椅子に座り直すと
ロッソは花菜子に微笑みを送った。

「少しはゆっくり出来た?」
「え? あ、はい!
 ありがとう御座います!」
「気にしなくても良いよ。
 志穂が世話になってるし」
「あれ? 気付いてたの?
 私が正体明かしたの」
「最初から彼女にはバレてただろうが」
「…それもそうか」

ロッソとベルデの醸し出す雰囲気が
兄妹のそれはと何かが違う。
花菜子にはそう見えていた。

「もしかして二人って…
 もう結婚、してる…とか?」
「えっ?」
「どうしてそう思ったんだ?」
「あ、いえ…。
 兄妹って言うよりは夫婦みたいだなって」
「…花菜子ちゃん」
「し、失礼な事言っちゃったかな…?」
「凄いな。解るんだ、そう云うの」

ロッソは花菜子の目を素直に感心していた。

「失礼なんかじゃないよ」
「志穂ちゃん…」
「嬉しいなぁ~。
 ちゃんと見る人が見ればそう見えるんだね。
 安心しちゃった」

ベルデは本当に嬉しそうだった。
見た目はどう考えても幼い自分が
ちゃんとロッソのパートナーと成れているかどうか。
人知れず、彼女は悩んでいたのだ。

「(良かったね)」

ゲールの表情もいつもより優しげだ。

「さて、お待ちかねのデザートか。
 本当に…間に合って良かった」
「あれ? もしかして…期待してた?」
「当たり前だろ?
 噂に名高い店の商品だぞ。
 興味無い訳ぇだろうが」
「本当、そう云う所が素直じゃない!」
「(そうそう!)」

ロッソ、ベルデ、そしてゲールの遣り取りを
花菜子は何処か羨ましそうに眺めている。

「花菜子ちゃんもそう思うよね?」

彼女の蚊帳の外感に気付いたのだろう。
ベルデはそう言って微笑みながら
彼女に声を掛けた。
ベルデ達は此方に飛び込んで来いと
合図を送ってくれている。
その事に気付いた花菜子は
同じ様に笑みを浮かべながら
温かな会話の中へ飛び込んで行った。

* * * * * *

遅い時間になったから、と
三人は花菜子を自宅迄送り届けた。
その手にはCARATI名物のバームクーヘン。
勿論これはロッソが用意した物だ。
同じ品は後二つ。
ベルデとゲールがそれぞれ持っている。
留守を預かる妙子や和司、
シーニーへのお土産だ。

『晋司のこう云う
 細やかな心配り出来る所が
 大好きなのよね。
 私も、妙子さんも』

ロッソと花菜子の遣り取りから
彼女もロッソを気に入っているらしい事は
しっかりと感じ取れた。
嬉しい様な、少し心配の様な。
一寸ちょっとだけせわしない、ベルデの心境であった。
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