事件ファイル No.7-11

女子大生飛び降り事件・前編

何やら深刻な表情を浮かべて
ベルデがロッソのもとへとやって来た。
無言で出して来たLINEの画面には
彼女と花菜子の遣り取りが表示されている。

「…何?」
「此処」
「ん?」

『ユキヒデさんってどんな人なの?』

「この【ユキヒデ】って…
 当たり前だけど、シーニーの事だよな?」
「うん……。
 ゲールは【ケント】だし、阿佐は【平助】だし」
「シーニーの事が知りたい、と…」
「そうみたい…」
「…素朴な疑問だわな」
「これって、花菜子ちゃんが
 シーニーの事好きって意味?」
「俺に聞かれても…」
「妙子さんは『そうじゃないか』って言ってたよ」
「先に妙子に聞いてたんかい!」
「え~? だってぇ~」

ロッソは呆れた表情を浮かべながらも
そのまま優しくベルデを抱き締める。

「応援してあげても良いよね?」
「何を?」
「もぅ! 花菜子ちゃんの気持ち!」
「まだその辺は判んねぇだろうが。
 単なる興味が出たレベルかも知れんし」
「それはそうだけど…」
「もしそうだとして、だ」

ロッソは静かに瞳を閉じる。

「俺達は【NUMBERING】なんだぞ。
 面倒な案件へ彼女を巻き込む事に
 発展しないとも限らない」
「それは…。でも……」
「彼女は俺達と同じ時間を生きる事が出来ない。
 妙子や和司、阿佐と同じ…普通の人間だ」
「ロッソ……」
「だが、その壁を『乗り越えられる』って言うなら…
 俺がとやかく言うつもりはぇよ」
「…優しいね、晋司」
「どうだか」

この天邪鬼は何時いつもそうやってうそぶき、
本心を隠そうとする。
ワザと悪態を吐く目の前の男がこんなにも愛しい。
ベルデはそっとロッソの唇にキスを送った。

* * * * * *

「あ、花菜子ちゃん? どうしたん?」

自室でスマートフォンの画面を覗いていると
花菜子から着信が来ていた事に気付いた。
改めて電話に出てみると
彼女は何やら元気が無い。

「大学で何か遭ったんか?」
『いえ…。大した事では……』
「我慢したらアカンよ。
 俺に言ってスッキリするんやったら
 遠慮無く話してくれてかまへんから」
『……うっ…』

やがて聞こえてくる嗚咽に
彼女が相当我慢を強いられている事を察する。
シーニーの目は怨掲示板の
或るトピックスに向いていた。

『気に入らない奴の個人情報を流します』

情報を流すだけなら大した事が無いと思いたいのか。
安易に連なるスレッドとレスポンスの数に
利用者の無責任さと能天気さが垣間見える。

「花菜子ちゃん、明後日 休みか?」
『は…はい。祭日なので授業も無くて』
「じゃあ…デート、せぇへん?
 まぁ、二人だけって訳にはいかんと思うけど」
『ユキヒデさん……』
「少しは肩の力抜いてリラックスせんとな。
 花菜子ちゃんは頑張り屋さんやから
 これは俺からの御褒美や」
『あ…ありがとう御座います……』

どうしてこんなに入れ込んでしまうのか
シーニー本人も理解が出来ていない。
だが、彼女の力になりたいと云う
この気持ちだけは嘘偽りが無い。

『笑われるかも知れんな、鷹矢ロッソには』

ふと自嘲気味な笑みを零すと
シーニーは具体的なデート案を切り出した。
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