事件ファイル No.7-12

女子大生飛び降り事件・前編

元気にアトラクションへと駆けて行くベルデと花菜子。
二人の少女の背中を優しく見守りながら
何も言わないロッソとシーニーの姿を
他のメンバーは不思議そうに眺めていた。

「シーニーさんがこう云う場所に居るのって
 本当に珍しいわよね?」
「確かに…。元々あまり外出しないし」
「やっぱり気になるのかしら」
「誰を?」
「花菜子ちゃんの事」
「シーニーが?」
「えぇ」

ゲールは和司と遊んでいる為
この会話には一切参加していない。

「それにしても…
 晋ったら、随分と難しい顔
 浮かべてるわね」
「心配性なんですか?
 その、ロッソって昔から…」
「昔はどちらかと言うと能天気な方だったわ。
 あまり悩まないタイプ。
 今とは真逆ね」
「じゃあ…やっぱり24年前のあの事件から……」
「えぇ…。考えてもみて。
 あんな経験をさせられたら
 誰だって世の中が信じられなくなっちゃう。
 自然と、自分で自分を守る為に
 戦わざるを得なくなるわ。
 だって…誰も信じられなくなるんですもの」
「妙子さん……」
「最近、色々と解ってきたのよ。
 晋の事が、少しずつ…ね」
「…えっ?」
「私を遠ざけようと
 素っ気無い態度を取り続けていたのも
 それでも、ずっと私を
 見守っていてくれていたのも…。
 きっと、何も知らない私を巻き込まない様に
 ずっと助けて、守り続けてくれていたんだって…」
「…成程な。ロッソらしいや」
「阿佐君も、そう思う?」
「えぇ、思います。
 言葉で巧く伝えられないタイプだから
 誤解され易いけど。
 ロッソって、魂が熱いんですよ。
 『守る』と決めたら絶対に守り抜く。
 そんな芯の強さがある男なんです」
「志穂ちゃんの存在が
 晋の能力を引き出したのかもね。
 眠っていた、彼本来の姿を」
「妙子さん……」
「昔よりも今の方が
 晋の熱くて優しい想いを感じられるの」

妙子はそう言って、意味深に微笑んだ。

* * * * * *

「何だかんだ言って弁当まで用意して。
 今日を一番楽しみにしとったん
 お前とちゃうか?」

昼食後のフリータイム。
シーニーはそう言ってニヤリと笑った。
喫煙所での会話。
ロッソは表情を変えずに煙草を吸っている。

「他に誰が作るんだ?
 園内の飲食は高くつくんだよ」
「それも事前に調べてたんやろ?
 弁当の持ち込みの可否」
「当たり前だ」
「用意周到やね、【晋司】君?」
「お互い様だろ、【ユキヒデ】君」

互いにいつも呼び合っているコードネームではなく
不慣れなファーストネーム擬きで呼び合うとは。
二人は思わず失笑した。

「ユキヒデにケント、か。
 これって、お前達の生前の名前…?」
「何でそう思ったん?」
「…勘、だよ」
「えぇ勘しとるな。相変わらず」
「当たりか?」
「…さぁ?」
「じゃあ、外れてはいないな」
「想像にお任せするわ」
「へいへい…」

ロッソはそう言うと、険しい表情を浮かべ
不意に視線を動かした。
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