「どうした?」
「あのドローン…」
「ん?」
「誰かが【悪意】を持って動かしてる。
狙いは……」
ロッソの視線がベルデと花菜子に移る。
「墜とせ」
シーニーは迷わずそう言った。
冷たく、静かな声で。
「全2機。1機は任せた」
ロッソはそう言うと
もう一機を追い駆けて素早く姿を消した。
二人の上空で飛行しているドローンは
シーニーが墜とせと云う事だ。
シーニーは懐に忍ばせてある拳銃を取り出すと
立ち姿勢を殆ど崩す事無く
プロペラの一部分を撃ち抜いた。
正に一瞬の早業。
操縦不能となったドローンは
フラフラと彼女達の許から離れ
やがて墜落して炎上した。
「悪意……」
拳銃を懐に戻すと
シーニーは険しい表情を浮かべた。
奥歯を噛み締め、何かを押し殺すかの様に。
「【運命】は…変えられへんのか?」
花菜子はとても楽しかったらしい。
こんな大勢ではしゃいだ事は初めてだと
とても喜んでいた。
次の約束を交わし、彼女を自宅へと送り届ける。
彼女の両親も嬉しそうに出迎えてくれた。
一人娘の花菜子の事をとても可愛がっているのが
手に取る様に伝わってくる。
「ユキヒデさん」
「ん? 何や、花菜子ちゃん?」
「あの、私……」
「…そっから先は、俺に言わせて」
「?」
シーニーには解ったのだろう。
花菜子が何を伝えたがっているのかを。
彼はニコッと微笑むと
そっと彼女の耳元に囁いた。
「その前に。今度は『二人きりで』会おうな」
「ユキヒデさん……」
「俺の名前、こう書くねん」
シーニーは花菜子の白くて小さな右手を取ると
その掌に漢字で名前を書いた。
「幸、秀…」
「そう、それで幸秀」
「幸秀さん…」
「二人だけの秘密、な」
「…はいっ!」
花菜子は本当に嬉しそうに笑っていた。
翌日。
いつもの仕込みに精を出すロッソ。
今日はベルデと妙子が
仕込みの手伝いを行っている。
ゲールと阿佐はホールの掃除だ。
まだ朝が早い為、和司は就寝中である。
ホールのTVモニターは
地上波の早朝ニュースを流していた。
いつもと同じ様に
店内のBGM代わりだ。
『ここで速報が入って来ました。
先程、△×ビルの屋上から
女性が落下したとの情報が入りました。
女性は全身を強く打っており
意識不明の重体です。
繰り返します。先程……』