事件ファイル No.7-13

女子大生飛び降り事件・前編

ロッソの目は一機のドローンを捉えていた。

「どうした?」
「あのドローン…」
「ん?」
「誰かが【悪意】を持って動かしてる。
 狙いは……」

ロッソの視線がベルデと花菜子に移る。

「墜とせ」

シーニーは迷わずそう言った。
冷たく、静かな声で。

「全2機。1機は任せた」

ロッソはそう言うと
もう一機を追い駆けて素早く姿を消した。
二人の上空で飛行しているドローンは
シーニーが墜とせと云う事だ。
シーニーは懐に忍ばせてある拳銃を取り出すと
立ち姿勢を殆ど崩す事無く
プロペラの一部分を撃ち抜いた。
正に一瞬の早業。
操縦不能となったドローンは
フラフラと彼女達の許から離れ
やがて墜落して炎上した。

「悪意……」

拳銃を懐に戻すと
シーニーは険しい表情を浮かべた。
奥歯を噛み締め、何かを押し殺すかの様に。

「【運命】は…変えられへんのか?」

* * * * * *

花菜子はとても楽しかったらしい。
こんな大勢ではしゃいだ事は初めてだと
とても喜んでいた。
次の約束を交わし、彼女を自宅へと送り届ける。
彼女の両親も嬉しそうに出迎えてくれた。
一人娘の花菜子の事をとても可愛がっているのが
手に取る様に伝わってくる。

「ユキヒデさん」
「ん? 何や、花菜子ちゃん?」
「あの、私……」
「…そっから先は、俺に言わせて」
「?」

シーニーには解ったのだろう。
花菜子が何を伝えたがっているのかを。
彼はニコッと微笑むと
そっと彼女の耳元に囁いた。

「その前に。今度は『二人きりで』会おうな」
「ユキヒデさん……」
「俺の名前、こう書くねん」

シーニーは花菜子の白くて小さな右手を取ると
その掌に漢字で名前を書いた。

「幸、秀…」
「そう、それで幸秀ユキヒデ
「幸秀さん…」
「二人だけの秘密、な」
「…はいっ!」

花菜子は本当に嬉しそうに笑っていた。

* * * * * *

翌日。

いつもの仕込みに精を出すロッソ。
今日はベルデと妙子が
仕込みの手伝いを行っている。
ゲールと阿佐はホールの掃除だ。
まだ朝が早い為、和司は就寝中である。

ホールのTVモニターは
地上波の早朝ニュースを流していた。
いつもと同じ様に
店内のBGM代わりだ。

『ここで速報が入って来ました。
 先程、△×ビルの屋上から
 女性が落下したとの情報が入りました。
 女性は全身を強く打っており
 意識不明の重体です。
 繰り返します。先程……』
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