事件ファイル No.7-5

女子大生飛び降り事件・前編

合コン迄後3日。
ベルデの男装の際に必要な物を買い出す為
彼女を含めゲール、阿佐、妙子が
いつもの商店街ではなく
街の外れのショッピングモールにやって来ていた。
ロッソは和司と留守番である。

「スンナリ留守番引き受けてくれたよな、ロッソ」
「和司君の事、大好きだもん」
「あまり長い時間だとあの子も愚図ぐずっちゃうから
 晋が引き受けてくれて助かったわ」
「案外、妙子さんに買い物を楽しんで欲しいって
 ロッソは考えてたのかも」
「多分そうだと思うわ」
「それを口にしないのがロッソらしいよね」
「(だから誤解されちゃうんだよ)」

今頃、ロッソは盛んにクシャミをしているだろうか。
そんな事を笑いながら話していると
彼等の目に奇妙な場面が届いた。

「何、アレ?」

声を上げたのは妙子だ。
一人の女性に対し、二人組の女が因縁をつけている。
その内の一人が女性からカバンを取り上げると
車が引っ切り無しに行き交う車道に放り投げた。

「!!」

瞬時にベルデが車道へ飛び出す。
女性が鞄を取りに行こうとしたのを察知したのだ。
阿佐もほぼ同時に女性達のもとへ駆け出すが
それに気付いた二人組は素早くその場から立ち去った。

「はい」

車のタイヤに踏み潰される事無く
無事にベルデは鞄を拾い上げると
それを彼女に差し出した。

「これ、大切な物なんだよね?」
「あ…ありがとう御座います……」

女性はそう言って鞄を抱き締めると
目から大量の涙を溢れさせた。

「お祖母ばあちゃんがくれた…
 お守りが付いてるんです」
「良かった…。
 大切なお守りが無事で」
「本当に、本当にありがとう御座います…。
 本当に……」

ゲールと妙子がベルデの許に辿り着く。
追跡を断念した阿佐も合流した。

「貴女、怪我は無い?」
「はい…。大丈夫です」
「可哀想に。震えてるわね。
 お家迄 私達が送るわ」
「そうだな。その方が良い」

彼等は急遽目的を変更し
この女性を家迄送り届ける事にした。

彼女は天澤あまざわ 花菜子かなこと名乗った。
この春で大学1年生になったと云う。
先程の二人組も同じ大学の学生だが
覚えの無い恨みを買ったのか
嫌がらせが続いて困っているらしい。

「女子大生かぁ~。憧れるなぁ~」

何気無く言ったベルデの一言だったが
花菜子以外の全員が何故かションボリとしている。

「? 私、何か変な事言った?」
「いや、何でも無い。気にしないで」
「そう? 一斉にそんな顔するから」

心の声が聴こえているのだから
彼等が瞬時に何を思い浮かべたのかは
ベルデにも解っている筈だ。
それでも彼女はあくまでも
気付かない振りをしてくれている。
阿佐には、それがとても嬉しかったと同時に
彼女にそんな生き方を強いた【運命】に
理不尽さを感じ取っていた。
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