事件ファイル No.7-8

女子大生飛び降り事件・前編

19時00分。
Ristorante CARATI。

簡単な自己紹介を終えて席に着く。
ベルデは正面に座る女性を見て
思わず声が出そうになり
慌てて口を袖で抑えた。

= どうした? =
= 私の正面に座ってる女性ひと
 彼女が花菜子さん =
= へぇ。可愛い子だな =
= そうでしょ? 可愛らしい女性ひとでしょ?
 だからこう云う場所に呼ばれたんじゃないかと思う =
= 客寄せパンダ的? =
= そんな感じ =
= そうかもな。
 何と言うか、本人は楽しくなさそうだし =
= 無理矢理参加させられてるのかも。
 ロッソの前に座ってる女の人
 私、見覚え有るもん =
= 成程 =

ロッソは何を思ったのか、
フッと表情を穏やかに変えた。
それ迄の近寄り難い雰囲気が途端に消え去る。
目の前の女性達に対し積極的に会話を弾ませた。
まるでその姿勢や立ち居振る舞いはベルデや花菜子、
そして彼女達の側で座るゲールを守る壁の様だ。

= そっちはそっちで楽しんでろよ。
 俺は阿佐も巻き込んで早めに此処から出る =

せめて花菜子が安心して楽しめる様に。
折角出来たベルデの友達が悲しまない様に。
それがロッソの気持ちだったのだ。

= ありがと、晋司 =

ロッソは宣言通り、開始30分程で二次会を提案し
ベルデやゲール、花菜子を置いて
他のメンバーと退席した。

* * * * * *

「あ、あの……」
「あ。支払いは気にしなくても良いよ。
 兄貴が払ってくれたから」
「兄貴って、さっきの…晋司、さん?」
「そうだよ」

ベルデは まだ、男の子のフリをしている様だ。
たまらずにゲールが噴き出した。

「(もう、止めなよ)」

手話でベルデを制そうとするゲール。
そんな彼の指の動きを見て
花菜子はしっかりと頷いた。
彼女はどうやら手話が理解出来るらしい。

「志穂ちゃん、だよね?」
「え? あ…うん……」
態々わざわざ来てくれたんでしょ?」
「えへへ。やっぱり直ぐにバレちゃってたね」
「そりゃ判るよ。お友達だもの」
「そうだよね!」
「(うんうん)」

漸く花菜子に笑顔が戻って来た。
三人はゲールの手話も交えて
楽し気に会食を再開させる。

「じゃあ…ケントさんも
 志穂ちゃんや晋司さんと一緒に住んでるの?」
「そうなの。シェアハウスっぽい感じ」
「へぇ~。楽しそう!」
「もう一人居るんだよね」

ゲールはこの合コンに参加する際
自身の名前を【ケント】と名乗った。
ロッソに確認を取ったが、
彼もその名前のルーツ迄は知らないらしい。
そう名乗れと指示したシーニーだけが知る事実。

『シーニーが此処に居たら、何て名乗るんだろ?』

そう言えば。
志穂では女性の名前だから、と
ベルデも此処では【シオン】と
名乗っていた事を今更ながら思い出した。
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