Ristorante CARATI。
簡単な自己紹介を終えて席に着く。
ベルデは正面に座る女性を見て
思わず声が出そうになり
慌てて口を袖で抑えた。
= どうした? =
= 私の正面に座ってる女性。
彼女が花菜子さん =
= へぇ。可愛い子だな =
= そうでしょ? 可愛らしい女性でしょ?
だからこう云う場所に呼ばれたんじゃないかと思う =
= 客寄せパンダ的? =
= そんな感じ =
= そうかもな。
何と言うか、本人は楽しくなさそうだし =
= 無理矢理参加させられてるのかも。
ロッソの前に座ってる女の人
私、見覚え有るもん =
= 成程 =
ロッソは何を思ったのか、
フッと表情を穏やかに変えた。
それ迄の近寄り難い雰囲気が途端に消え去る。
目の前の女性達に対し積極的に会話を弾ませた。
まるでその姿勢や立ち居振る舞いはベルデや花菜子、
そして彼女達の側で座るゲールを守る壁の様だ。
= そっちはそっちで楽しんでろよ。
俺は阿佐も巻き込んで早めに此処から出る =
せめて花菜子が安心して楽しめる様に。
折角出来たベルデの友達が悲しまない様に。
それがロッソの気持ちだったのだ。
= ありがと、晋司 =
ロッソは宣言通り、開始30分程で二次会を提案し
ベルデやゲール、花菜子を置いて
他のメンバーと退席した。
「あ、あの……」
「あ。支払いは気にしなくても良いよ。
兄貴が払ってくれたから」
「兄貴って、さっきの…晋司、さん?」
「そうだよ」
ベルデは まだ、男の子のフリをしている様だ。
堪らずにゲールが噴き出した。
「(もう、止めなよ)」
手話でベルデを制そうとするゲール。
そんな彼の指の動きを見て
花菜子は確りと頷いた。
彼女はどうやら手話が理解出来るらしい。
「志穂ちゃん、だよね?」
「え? あ…うん……」
「態々来てくれたんでしょ?」
「えへへ。やっぱり直ぐにバレちゃってたね」
「そりゃ判るよ。お友達だもの」
「そうだよね!」
「(うんうん)」
漸く花菜子に笑顔が戻って来た。
三人はゲールの手話も交えて
楽し気に会食を再開させる。
「じゃあ…ケントさんも
志穂ちゃんや晋司さんと一緒に住んでるの?」
「そうなの。シェアハウスっぽい感じ」
「へぇ~。楽しそう!」
「もう一人居るんだよね」
ゲールはこの合コンに参加する際
自身の名前を【ケント】と名乗った。
ロッソに確認を取ったが、
彼もその名前のルーツ迄は知らないらしい。
そう名乗れと指示したシーニーだけが知る事実。
『シーニーが此処に居たら、何て名乗るんだろ?』
そう言えば。
志穂では女性の名前だから、と
ベルデも此処では【シオン】と
名乗っていた事を今更ながら思い出した。