事件ファイル No.8-10

女子大生飛び降り事件・後編

午前11時より行われた告別式は
2時間後の午後1時に終わりを迎えた。
火葬場へ向かう霊柩車を見送る為
シーニー達は沿道に出て整列していた。

やがて、天澤夫婦が姿を見せる。
母親の胸にいだかれた花菜子の遺影。
数日前までの彼女との遣り取りを思い出し
ベルデは涙をこらえようと思わずうつむいた。

「ちゃんと見送ってやろう」

ロッソの声にハッとし、
彼女は再度 顔を上げた。

「泣いても良い。
 後悔しない様に、ちゃんと顔を上げて。
 友人として、最期の挨拶を送るんだ」
「…うん」

ロッソの右隣では妙子が目頭をハンカチで抑えている。
心配そうに母親を見つめる和司は
ロッソの喪服のズボンを握り締めていた。
状況が判らないなりに、幼い和司も必死なのだ。

棺が担ぎ込まれ、天澤夫婦が沿道に会釈する。
やがて霊柩車は静かに動き出した。
その姿が小さくなっていき、やがて見えなくなると
沿道の人達も一人、又一人
少しずつ我が家へと帰って行く。

「…あれ?」

ベルデは思わず声を上げた。
胸元に入れていたスマートフォンが震えている。
告別式に参加する際、マナーだからと
シーニーからバイブレーションの呼び出しへ
切り替える様にとアドバイスを受けていたのだが。

「グループLINEに新着メッセージ…。
 これ、花菜子ちゃんのアカウントからだ!」

ベルデはそれを見付けて驚きの声を上げた。

『ありがとう』

一言、そう送られている。

この言葉が本当に花菜子のものなのか。
両親が彼女の気持ちを代弁したのかは判らない。
だが、それは正直 追求しない方が良いと感じた。

「ねぇ……」
「ん? 何だ?」
「このグループLINEさ。
 このまま残してても…良いかな?」

ベルデはそう言うと再び自信無さげに頷いた。
しばしの沈黙の後。

「残したらぇやん」

返答したのはシーニーだった。

「シーニー…」
「消す必要なんてあらへん。
 俺等の楽しい思い出が詰まってる場所なんや。
 寧ろ、残しとき」
「…うん!」
「俺も残してるし」
「シーニー……」

シーニーは穏やかな微笑みを浮かべている。
その笑顔を、仲間達も又
優しい表情で見つめていた。

「さぁ。帰るか」

ロッソの言葉に全員が頷いた。

* * * * * *

数日後。

花菜子が転落死したと報じられた△×ビルの屋上から
二人の女子大生が身投げしたとの報道が流れた。

木下と槙田。
二人はインターネット上で
同級生を虐め抜き、それに飽き足らず
裏サイトにターゲットの個人情報を流した上で殺害依頼し
ターゲットを自殺に見せかけて殺した。

その経緯を、証拠も添えて全て暴露された。
大学にも通えず、家にも居られない状況に陥り
精神的に追い詰められた二人が逃げた先は【死】だった。

「これって……」

阿佐はそう呟き、シーニーを見たが
彼は全くの無反応だった。

誰一人として逃がさない。
あの時、そう言い切ったシーニー。
彼の恐ろしさを、阿佐は身を以て体感した。
Home INDEX ←Back Next→