その場所に在る避雷針に
一人の男が括りつけられていた。
舌を抜き取られ、悲鳴を上げる事も出来ない。
細いワイヤーで体の動きを抑えられたまま。
「後どれ位だ?」
ビルから程離れた場所で
ロッソ・ベルデ・ゲールの三人が
その様子を眺めている。
空は厚い雨雲に覆われており
遠くの方から鈍い重低音が響いている。
「10分以内…ってところかしら?」
「…賭けるか?」
「え? 何を?」
「俺は5分以内に【終わる】と思うぜ」
= 僕も、なんだけど…。
それじゃ賭けにならないね =
「だなぁ~」
「じゃあ、私は3分以内」
= 随分と勝負に出たね、ベルデ =
「天の神様が許して下さるなら
万が一…って事も有るだろうけど」
「
= そうだね =
その直後、雷が急速に此方に近付いて来た。
まるで、男が
真っ直ぐ此方に向かって来ている様だ。
「裁きの時間だ」
ロッソの言葉とほぼ同時に
肉の焦げる臭いが付近に充満し
鼻が誰よりも敏感なゲールは
思い切り顔を
「…3分以内。
ベルデの一人勝ちだな、こりゃ」
腕時計を見ながら、ロッソが淡々と答える。
花菜子の復讐が果たせた瞬間だったが
達成感などは無かった。
心を占めていたのは、虚しさ。
「確か11時から告別式だったよな?」
「えぇ。急いで帰って支度をしないと…」
= これで花菜子ちゃんとお別れになるんだね… =
「うん…。寂しいね、ゲール」
= 寂しいし、悲しいよ…… =
ロッソは何も言わず、そのまま踵を返した。
その背中は二人に『帰ろう』と訴えている。
現場は、悲劇を目撃した野次馬によって
騒然となっていたが
彼等三人は無言で静かにその場を後にした。
ラジオニュースの速報が
次々と不気味な事件を報告する。
花菜子の父親は何も言わず
その報道を耳にしていた。
時折静かに頷きながら。
母親は娘との最後の時間を過ごしていた。
「花菜子…。
貴女の無念、晴らしてくれたわよ。
幸秀さんがね……」
溢れる涙を拭う事無く
それでも母親の表情には温かさがあった。
「花菜子、もう暫く待っててね。
父さんも母さんも、
もう少しだけ生きてみようと思うの。
貴女の分も確りと、ね」
「あぁ。それが幸秀君との約束だからな」
愛する妻の肩を優しく抱きながら
父親はそう言って
愛娘に微笑み掛けていた。