事件ファイル No.9-1

的場一家 惨殺事件・中編

『例の、掲示板での騒動では
 奴等を巧く誘導出来なかったみたいだな』
「はい。どうやら此方の思惑を読まれていた様です」

水間はスマートフォンから聞こえてくる声に
小さく頷いて返事をした。

『所詮は使い捨ての駒だが、
 その作戦で少しは収穫が有ったのか?』
「掛けた金程は返って来ませんでしたね」
『やはり、奴等を指揮するのがあの男では
 そう簡単に陥落しない様だ』
「シーニー、ですか?」
『今は確か、そう名乗っているんだったな。
 お前からすれば呼び難いだろう』
「えぇ、非常に」

その時に見せた水間の目は
別の何かを見ている様に柔和になっていた。

* * * * * *

阿佐は改めて
【Memento Mori】の資料に目を通していた。
特に、全ての始まりとされる
的場一家 惨殺事件の詳細を探るべく。

「休憩、要るか?」
「あ、ロッソ!」
「何慌てて隠してるんだ?」
「いや、これは……」

ロッソはファイルの内容を瞬時に見た様だが
態度はまるで変わらなかった。

「志穂の事件……」
「…あぁ。全ては此処に集約されている。
 水間さんはそう言ってこれを渡してくれた」
「半分は『外れ』だけど」

対面の椅子に腰掛け
ロッソは静かに阿佐を見つめてくる。

「俺で答えられる事なら回答するぞ」
「ロッソ……」
「ロッソとしても、鷹矢としてもな。
 但し一点だけ注文がある」
「何だい?」
「ベルデには、
 …志穂には問い質さないでやってくれ。
 頼む……」
「事件の詳細を、だね」

ロッソは黙って深く頷いた。
これ以上ベルデが傷付かない様に
彼は今も守ろうとしているのだ。

「勿論だよ、ロッソ」
「感謝する」

自分との信頼関係が
確かなものになって来たと判断したからこそ
ロッソは敢えて動いたのだろう。
阿佐はそう考え、ロッソに感謝した。

* * * * * *

復讐掲示板に連なる文字列を眺めながら
シーニーは黙々と煙草を吹かしていた。
画面の先に居る水間の動向を
彼はこの場から追っているかの様だ。

「そろそろお遊びにも飽きてきたよな?」

彼の声に応えるかの様に届いたメール。
その中身を確認すると
シーニーは口の端を上げ、笑い出した。

「やはり我慢出来ん様になったか。
 昔からそうや。
 お前には『辛抱が足りん』」

『久しぶりに会って話がしたい。
 お前と、昔話をな。』

「そうやなぁ…。
 ここ数年は電話でのみやったし。
 一度ツラ合わせて話、した方がぇかな?」

そして一気に顔を険しく歪める。
苦渋に満ちた表情。

「お前と、殺し合う前に」
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