事件ファイル No.8-3

女子大生飛び降り事件・後編

一人【Cielo blu in paradiso】に
戻って来たシーニーは
直ぐゲールや妙子に事情を説明し
画像抜出の作業を彼等に頼み込んだ。
二人は快く承諾し、直ぐに作業に取り掛かる。
まだ幼い和司は大人達の必死な姿を
黙ったまま、それでも懸命に
応援してくれている様だ。
シーニーは怨掲示板の情報を抜き出すと
花菜子の案件に関係する書き込みを
一つずつ精査し出した。
常人では有り得ない程のスピードに
妙子は『凄い』と一言呟いた。

「…これか」

そして2時間後。
シーニーは遂に辿り着いた。

「見付けたの? シーニーさん」
「あぁ…。しかしこれが事実やとすると」
「何か問題でも?」
「一つ一つに関しては小さな悪意に過ぎん。
 一連の流れを纏めて
 殺人事件として立証する事は…
 恐らく今の検察だと不可能やろう」
「裁判で裁けないって事?」
「そうや。確かに、裁けるものもあるかも知れん。
 だが全員やない。必ず逃げ遂せる奴が出てくる」
「(それじゃ意味が無い!)」
「そうや。全員裁かな意味が無い。
 少なくとも、俺等からすればな」
「やはり依頼を出してもらうしかないんじゃ…」

妙子はそう言って思案している。
【Memento Mori】と復讐掲示板の存在。
だがそれを、花菜子の両親にどう伝えれば良いのか。

「花菜子ちゃんの御両親、一寸ちょっと御年配だし。
 ネット環境にはあまり強くなさそうだもの」
「……告別式迄に依頼貰わんと」
「シーニーさん……」

彼が今、葛藤しているのは手に取る様に伝わってくる。
誰よりもNUMBERINGとしての規律ルールに厳しい男。
そんな彼が規律ルールを破ってでも果たしたい復讐。

「(必ず突破口は切り開ける。諦めないで!)」
「ゲール?」
「ゲール君…。そうよね。
 まだ諦めるのは早いわ、シーニーさん!」
「…おおきに、二人共」

シーニーはそう言ってフッと微笑んだ。

* * * * * *

同じ頃。
ロッソの愛用するバイク【ヤマハ WR250Xの赤黒】に跨り
二人はベルデの示す『音の発生地』へと向かっていた。
其処は確かに現場よりも花菜子の自宅に程近い。
彼女を夜中に連れ出す事が出来れば
犯行を行う事は容易たやすいと思われる。

「花菜子ちゃんは…酷い目に遭ったんだよね?」

震える声で、ベルデがそう聞いて来た。
どう答えれば良いのか、ロッソが言い淀んでいると。

「うん…。その反応で判った」
「…ベルデ」
「ロッソは…晋司は、余計に辛いよね」

ベルデがそのまま優しくロッソの背中にしがみ付く。
触れてる箇所から伝わる温もりが
自分の正気を維持している。
ロッソはそう感じていた。
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