「此処か」
その地に降り立った瞬間
ロッソの【目】に
ベルデの【耳】に飛び込んで来た衝撃。
花菜子が死の間際に残した【証拠】だった。
「此処で、花菜子ちゃんは…」
「ベルデ」
悲しみに暮れるベルデに対し
ロッソは鋭い声で彼女を現実に呼び戻す。
敵の存在を感知したのだ。
「NUMBERINGじゃない。人形でもない」
確かに、彼等が普段戦う相手とは違う。
其処に居たのは、この廃墟を根城にして屯している
無法者を気取った不良少年達だった。
「何だぁ? こんな所に女連れか~?」
下卑た笑い声が周囲に響き渡り
その不快感からベルデが思い切り顔を顰めた。
「此処に女を連れ込んだの、お前達か?」
「はぁ? 女だぁ?」
「昨日の深夜から今朝にかけて」
「だったらどうだってんだ?」
「ぶっ殺す」
ロッソはそう言うとヘルメットを取り、
バイクに置いた。
眼鏡を着用していない裸眼での視線は
いつも以上に鋭さを増している。
「何言ってんだ、オッサン?
俺等に勝てるとでも思ってんの?」
不良少年の一人が手を上げると
奥から仲間がゾロゾロと姿を現した。
「揃いも揃って違法薬物中毒者かよ。
クズ揃いだな、おい」
ロッソは臨戦態勢に入っている。
何時でも戦闘に移行出来そうだ。
= シーニー =
ベルデはそんな彼を見つめながら
シーニーに指示を仰いだ。
ロッソを止めるのであれば、このタイミングしかない。
しかし。
= 排除で =
シーニーはロッソの戦闘を許可した。
相手はNUMBERINGではない。
分類で言えば一般人である。
「ロッソ」
「許可が出たな。それじゃ遠慮無く」
ロッソはそう言うと、
無謀にも突っ込んで来た若者の頭を蹴り飛ばした。
サッカーボールの様に飛んで行く頭部に
見ていた者達の動きが綺麗に止まった。
怖じ気付いたのだろうが
それで攻撃の手を弱める様なロッソではない。
一瞬で絶命させるだけ、まだ温情がある。
そう言わざるを得ない程
ロッソは呆気無く、その場に居た全員を瞬殺した。
「弱過ぎる。喧嘩にもならねぇ」
面白くないとばかりに死体を眺め
ロッソはその内の一体に唾を吐き付けた。
更にもう一体を乱暴に蹴り上げる。
「花菜子ちゃん、居るの?」
「ん? 何処だ?」
「あっちの方向」
「ベルデ、手を貸せ」
差し出されたロッソの手を握ると
傷付いた姿の花菜子の魂が見えた。
必死に此方に向かって
何かを訴えかけている。
「…騙された、の?
此処に連れて来られて…殺され、た…」
= お父さんと、お母さんを…守って。
お願い、二人を…止めて…… =
「シーニーが言ってた【通夜】って
まさか、そう云う事か…?」
ロッソの考えている事が伝わったのだろう。
花菜子は必死に首を縦に振っている。
「安心してくれ、花菜子ちゃん。
二人を死なせてたまるか。
必ず、止めてみせるから」
= 志穂ちゃん…。晋司さん…。
幸秀さんに、伝えて…… =
「何て? 何て伝えれば良いの?」
= 私の恨みを…晴らして、欲しいの…。
もう誰も、私の様な目に…遭って、欲しくない…。
だから…止めて! お願い!! =
「花菜子ちゃん……」
「了解した。
ユキヒデ、ケントを含め
俺達【Memento Mori】は
天澤 花菜子さんの【依頼】を確かに受け取った」
= ありがとう…。
宜しく、お願いします…… =
花菜子の姿が薄らいでいく。
この場の拘束を解かれ、
自身の家へと帰って行くのだろう。
「何としても止めないとな」
「えぇ。花菜子ちゃんの願いを叶えないと。
先ずは、ご両親の後追いを止めないとね」
二人は互いに頷き合うと急いでバイクに跨り、
【Cielo blu in paradiso】へと帰還した。