事件ファイル No.8-5

女子大生飛び降り事件・後編

一つ一つは小さな【悪意】のピースだった。
だが、不幸な事に
或る人物によって枠を用意され
やがて一枚のパズル絵として完成してしまった。

* * * * * *

花菜子殺害の背景が漸く判明した。

「その枠を用意した奴が…」
「怨掲示板で彼女の個人情報を流した奴等や。
 木下きのした 綾華あやか槙田まきた 和泉いずみ
「この二人って…」
「全員、面識がある筈やで。
 花菜子ちゃんを苛めとった二人組」
「あの二人か……」
「彼女達がこの事件で起こした事は…
 花菜子ちゃんの個人情報を
 怨掲示板に載せた事だけ?」

妙子の質問にシーニーは首を横に振り
怨掲示板の或るトピックスを全員に示した。

『気に入らない奴、消しちゃいます。
 投票の多かった奴から処刑しちゃうので
 どんどんアンケートに答えてね』

巫山戯ふざけやがって…。
 人殺しをゲームか何かと勘違いしてやがる」
「投票した奴等は冗談のつもりで乗ったんやろう。
 だが、その無責任な一票が一人の生命いのちを奪った。
 其奴等そいつらも間接的に、花菜子ちゃんを殺したんや」

シーニーの言葉はとても静かだった。
其処には怒りも悲しみも無く
只、淡々と事実を述べるだけだった。

「投票した奴等にもそれ相応の罰は受けてもらう」
「俺達は実際に手を下した奴等の処刑だな」
「あ、でもロッソ…」
「何だ、阿佐?」
「その…ロッソとベルデは
 『見える』し『聞こえる』から良いんだけどさ。
 花菜子ちゃんが依頼したって
 証明出来るって訳じゃないんだよ…な?」
「何だよ、藪から棒に。水間の横槍か?」
「うん、まぁ…。そう捉えても仕方無いかと。
 只、俺が証明したくてもさ……」
「阿佐の助言は尤もな事やな。
 今のままでは、例え花菜子ちゃん直々の依頼でも
 それを第三者には証明出来ん。
 俺等の私怨を彼女の意思と偽証して
 復讐行動を起こす事かって可能な訳なんやし」

シーニーは冷静にこう言ってのけた。
阿佐は安堵したのか、肩の力が一瞬抜けた。

「だから貰いに行くんやって」
「え? 何を?」
「復讐の依頼、だろ?
 花菜子ちゃんの両親から直々に」

ロッソの言葉にシーニーが無言で頷く。
彼が花菜子の通夜に重点を置いていたのは
この為でもあったのだ。

「通夜には恐らく木下・槙田の両名が
 何食わぬ顔で参加するやろう。
 間違ってもキレて襲い掛かるなよ?
 特にロッソ」
らねぇよ。流石にそんな場所で」
「彼女等にはもっとキッツいお仕置きが必要や」
「……苛めには虐めを、か?」

シーニーは何も答えない。
不気味に光ったその眼光には
言葉には言い表せない殺気が宿っている。
花菜子が受け続けた恐怖、苦しみ、悲しみ、痛みを
彼女達にも負わせるつもりなのだろう。

「…本気だったのね、花菜子ちゃんの事」
「そうみたい。晋司以上に何も言わないから…」
「花菜子ちゃん、きっと喜んでくれてると思うわ。
 だって…シーニーさんは花菜子ちゃんの事
 こんなに強く想ってくれてるんだから」

涙を堪えながら妙子はそう言うと
両手で顔を覆ってベルデに体を預けた。
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