事件ファイル No.8-7

女子大生飛び降り事件・後編

「花菜子ちゃんは自殺やない。
 現場を調べて分かりました。
 彼女は殺されたんや、と」
「?!」
「そんな…。どうして…?」
「彼女自身の所為じゃありません。
 全く身に覚えの無い怨恨が原因です」
「怨恨…。あの娘が……」
「花菜子ちゃんの無念は、僕達が晴らします」
「…幸秀さん?」
「敵討ちの許可、戴けますか?」

シーニーは誤魔化す事無くハッキリと申し出た。
花菜子の両親は驚いた表情を浮かべ
顔を見合わせて言葉を詰まらせている。

「突然こんな事を言い出して
 確かに可笑おかしいかも知れませんけど」
「幸秀君…。
 君の口振りからすると
 【初めて】とは思えないんだが…」

花菜子の父は静かにそう言った。
一切の迷い無く復讐依頼の話を出して来たのだ。
確かにそう疑っても不思議ではない。
ただ、この話にはもう少し続きがある。

「だが、もし花菜子が自殺ではなく他殺なら…
 あの子を殺した犯人が存在するのなら…
 確かに、この手で八つ裂きにしてやりたい」
「お父さん……」
「あの子は私達の大切な宝物だ。
 大切な、大切な一人娘だった…。
 それを…こんな、こんな勝手に奪われて
 犯人を許せる訳が無い……」

父親は正直な気持ちを吐露すると
静かに涙を流していた。

「敵を、討ってくれるのかい?」
「お父さん、でもそれでは幸秀さんが…」
「僕なら大丈夫です」

シーニーは笑っている。
だがその笑顔も、花菜子の父親と同様
涙を堪えているかの様に見えた。

「必ず、敵は取ります。
 一人たりとも逃しません」
「幸秀君…」
「幸秀さん……」
「約束します。
 僕が…いえ、【僕達】が。必ず」
「……お願いします。
 娘の、花菜子の無念を
 どうか晴らしてやってください」

父親はそう言って深々と頭を下げた。

* * * * * *

花菜子の母親は泣きながら
シーニーの傷付いた左手を手当てしていた。
何度も『御免なさい』を繰り返す。
その姿が出会った頃の花菜子と重なった。

「生きてください」
「幸秀さん……」
「こんな状況で、こんな心境の方に
 言う台詞じゃないのは重々承知です。
 むごい事言ってると自分でも思ってます。
 それでも、お二人には生きて欲しいんです。
 …花菜子ちゃんの分まで」
「花菜子の分まで……」
「お二人が居てくれれば
 花菜子ちゃんは いつだってこの家に帰って来れる。
 いつだってお二人の側で守ってくれますから」
「……幸秀さん」
「それが、何よりの【報酬】になります。
 僕達にとって」

シーニーの言葉に、
花菜子の両親は再度顔を見合わせて頷いた。
だがその表情は穏やかで
花菜子の願いが漸く二人に通じたのだと
シーニーは一人思っていた。
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