事件ファイル No.9-2

的場一家 惨殺事件・中編

ゲールは和司と遊びながら
静かに夕陽を見つめていた。
その横顔がどこか寂しそうで
和司は思い切りゲールを抱き締める。

「ここに、いるよ」
「(和司君…)」
「ゲールのちかくに、ずっといるよ」

和司はそう言ってニコニコと笑っている。
その笑顔は確かにロッソとよく似ていた。
二人が本当の父と息子であるとよく判る。

『両親…。家族……』

事件に巻き込まれ、家族と会えなくなったのは
ロッソやベルデだけではない。
既に身内が故人だったと述べたシーニーを除けば
ゲールも又、無理矢理
家族と引き裂かれた被害者の一人だ。

『元気にしてるかな…?』

彼は一人、夕陽を見つめては
会えなくなった家族の事を思い出していた。
ベルデの事を考え、それを言葉にしない様
細心の注意を払いながら。
自ら言葉を封じたのは、ベルデを悲しませない為。
彼女を守る為。

「ゲール…」

ゲールはフッと笑みを浮かべると
ゆっくり愛用のマスクを外した。

「ありがとう、和司君」
「?! ゲール?」

確かにゲールの口から声が聞こえた。
自分の名前を呼ぶ声が。
少し高めの、穏やかな声。
驚く和司を優しく抱き上げると
ゲールはいつもの笑顔に戻っていた。

* * * * * *

「これを見てくれ」
「これは?」
「今朝、シーニーから渡された。
 お前に見せてやれって」
「…この二人の人物の名前。
 甲斐かい 幸秀ゆきひで
 高須賀たかすが 研斗けんとって
 何処かで聞いた様な…?」
「そりゃそうだろ。
 花菜子ちゃんと会った合コンで
 ゲールはどう名乗ってた?」
「…【ケント】だ! じゃあ……」
「御名答」

ロッソはそう言って意地悪っぽく笑った。

「俺もこの間、初めて知ったんだよ。
 甲斐がシーニー、高須賀がゲールって訳だ」
「当たり前の事を聞くけど…
 二人共、故人…なんだよな?」
「この二人の名前で検索してみな。
 殺された事件がHitする筈だ」
「そうか…。しかし、何故……?」
「俺達が殺された理由、か?」
「あぁ……」
「俺と甲斐に関しては、ほぼ同じ理由だ。
 志穂の死の原因を追う内に
 踏んじゃいけない奴等の尻尾を
 思いっ切り踏んじまった」
「奴等…?」
「この世にNUMBERINGを生み出し、
 それを商売に使いながら
 戦争ゴッコを推奨してる莫迦共さ」
「!!」
Gruppeグルッペ vonヴォン  Duschenドゥーシェン
 通称【GvD】。覚えておけ」
「ロッソ……」
「俺達【Memento Mori】の敵、だ」

ロッソの目に一切の迷いは無かった。
真実をさらけ出してこそ守れる術もある。
彼は阿佐を信じたからこそ
此処迄危険な情報を口にしたのだ。
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