事件ファイル No.9-3

的場一家 惨殺事件・中編

「そもそも何故GvDが
 NUMBERING計画を打ち立てたのかは判らん。
 死に損ないの再利用で金儲けってのは
 当たらずしも遠からず、だろうが」

ロッソはそう言って冷めた珈琲を口に含んだ。

「奴等は奇妙な物を探していた」
「奇妙な物?」
「G-Cellって呼ばれている物質らしい」
「G-Cellって物質なのか?
 水間さんは確か【神の遺伝子】と呼んでた。
 死者を蘇らせる力が有る細胞だって」
「へぇ…。まぁ、確かに『死者は蘇った』かな?」
「ベルデが所持してるって」
「…其処迄の情報を水間は掴んでたのか」
「多分。俺に教えられる位だし」
「死者を蘇らせるってのは、正解じゃねぇ」
「え? 違うの?」
「志穂の血と細胞は、実験として
 様々な死体や半死人に投与されたらしいんだが…
 実は、殆ど蘇生に失敗してるんだよ」
「蘇生に、失敗?」
「そう。成功例は本人含めたったの4件。
 その原因も理由も、結局 奴等は掴めなかった」
「ベルデの、その…人体実験?の事は…
 皆、何時いつから知ってるんだ?」
「俺は目覚めて直ぐだった」

当時の事を思い出したのか
ロッソは一瞬だが、目を閉じた。
眉間に深い皺が刻まれている。

「眠っている彼女の体を切り刻み
 それを実験に利用している。
 シーニーからその事実を聞かされた瞬間…
 俺は頭の中が真っ白になった」
「ロッソ……」
「何も考えられなくなり…
 気が付いたら、俺は……
 彼女が眠る治療カプセルの生命維持装置までも
 破壊しそうになっていた」
「……」
「ゲールが止めてくれなかったら…
 今頃、どうなっていたか判らない……」
「制御出来ない怒り…。解るよ、ロッソ…」
「阿佐…?」
「20年振りに漸く会えた大切な女性ひと
 そんな目に遭わされていただなんて…
 正気で居られる訳、ないもんな」
「……」
「その事実を知りながら止められなかったシーニーも
 そして、ロッソを止めてくれたゲールも…
 ずっと、苦しんで来たんだと思う」
「…そうだな。きっと、そうだ。
 だから俺達は【Memento Mori】を立ち上げた」
「……」
「【Memento Mori】は正式メンバーが三人。
 リーダーはシーニー。後はゲールと、俺だ」
「…んっ? あれ? ベルデは?」
「【Memento Mori】を立ち上げた最大の理由は
 GvDから『的場 志穂を護り抜く』為だよ」

そう言ってロッソは笑みを浮かべた。

「仲間として囲ってしまうのが一番守り易い」
「そう云う事だったんだ……」
「俺達三人はあくまで志穂を守る為に戦っている。
 それは彼女が【ベルデ】を名乗り、
 共に戦っていたとしても同じだ」
「リーダーはシーニーだって言ってたけど
 じゃあ…発案者も?」
「当然。シーニーだ。
 俺やゲールがこんな手の込んだ事考えるかよ」

ロッソはそう言って豪快に笑った。
正直、笑って良いのかどうか怪しい所だが
気が付けば阿佐も釣られて笑っていた。
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