事件ファイル No.9-4

的場一家 惨殺事件・中編

「俺達は死んだ後、
 その身柄をGvDの所有する研究所に送られた。
 志穂の細胞を利用する名目だったから
 彼女が眠る研究所に送られたんだろうと思う」

シーニーから聞かされた、意識が無い期間の出来事。
それをゆっくりと思い出しながらロッソは話を続ける。

「それぞれ、覚醒する迄の期間が違うんだ。
 一番長かったのがゲールの10年。
 短かったのは俺の半年間」
「その差はどうして生じたんだろう?
 遺体の損壊具合?」
「損壊具合なら俺が一番酷かったらしいけどな。
 その次に損壊が激しかったシーニーは
 目覚める迄に5年掛かったらしい」
「それじゃ損壊状態は関係無いって事か…」
「あと考えられるのは【抵抗値】の差だな」
「抵抗値?」
「あぁ。志穂の血液や細胞を注入してから
 俺達の体が何処どこ迄それを受け入れるか。
 俺はその抵抗値が一番低かった」
「逆に一番高かったのは?」
「確か…ゲールだ。
 しかし高いと言っても1%は切ってたらしいし」
「じゃあ…もし昏睡期間と関係が有るとすれば
 抵抗値が一番現実的なんじゃないかな?」
「俺達もそう睨んでいる」

ロッソはそう言って二階へと続く奥の階段を見つめた。
その一つ一つの仕草が今の彼の慎重な姿勢を
如実に表しているかの様に見えた。

「GvDはその辺りも掴んでいるんだろうか?」
「其処迄は流石に判らん。
 掴んでいたとしてもおかしくはないだろう」
「しかし…話を聞いてるだけでも
 とんでもない考えを持つ連中だな」
「渡邊を思い出せば、それも納得だろ?」
「言われてみれば……」
「究極の選民思想だと思うぜ」
「……水間さんは」

阿佐はそう言うと下を向いて俯いた。
触れているコーヒーカップがカタカタと震えている。

「どうしてそんな事を知っていたんだ?
 警察の上層部だから? それとも…」
「期待を裏切る様な事を言うかも知れんが」

ロッソはそう言って再度珈琲を口にした。

「政治家や警察上層部、法曹界や経済界でも
 この事を知っているのは、ほんの極一部」
「…え?」
「それは世界中に視野を広げても同じ割合だ」
「世界中でも…ほんの一部の人間しか知らない…?」
「そう。水間はその『ほんの一部の人間』に属する」
「……」
「その辺は恐らく、シーニーが詳しい。
 彼奴アイツが話してくれれば、納得出来るだろう」
「ロッソは聞いた事有るのか?」
「いや、無い。俺もゲールもな」
「ベルデ…は絶対に知らないよな。
 シーニーが彼女だけに話してるとは思えない」
「勿論だ。彼女にだけは黙ってるだろうさ」

一つの謎が解明する毎に増えていく新たな謎。
見えそうで見えてこない水間の真意。
阿佐の苛立ちを、ロッソは黙って見守っていた。
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