事件ファイル No.9-5

的場一家 惨殺事件・中編

研究所を出ようと最初に言ったのは
ロッソが研究員を惨殺した後だったか。

ベルデが知らなかった自身の死後の悲劇。
それを知った彼女の絶望。
ベルデに【真実】を伝えた存在。
事の真相を問い質したロッソに対し、
下卑た笑いを浮かべながら答えた研究員。
直後、怒りに駆られたロッソは
研究員を殴り殺した。

あの時、ランクSSSが二人掛かりで止めに入ったが
ロッソの、制御されない力に敵わず
彼の暴走を抑える事すら出来ずにいた。

「ベルデが姿を見せた瞬間、彼奴アイツは動きを止めた。
 しかしその後…不意打ちで電撃を食らったロッソは
 その衝撃で昏倒した……」

動きを止める為に義手義足を取り上げようとしたが
ロックが掛かっていた為、外せなかった。
止むを得ず、研究員達は
彼の両手両足を鎖に繋いで拘束し
目と口を塞いで窓も無い個室に閉じ込めた。

「その際、確か脳にチップを埋め込まれたんやったな。
 どの部位に埋め込まれたかが判らんから
 除去する事も出来んままやし…。
 それ以前に外科手術が出来そうな面子が居らんと」

どんなチップがどの場所に埋め込まれているのか
未だに判明していない。
ロッソに関しての懸念材料を残したまま
彼等はやがて研究所を後にした。

「あの時もそうやったな。
 独居房でボロボロの状態にされとった
 ロッソを助け出したのは…ベルデやった。
 部屋から連れ出したんも、治療に当たったんも
 全部あのが一人でやり切った」

その時に彼女が漏らした独り言を
不意にシーニーは思い出した。

「『私の所為だから』…か」

それが昔からの、ベルデの口癖。
彼女はそうやっていつも、
人知れず自分を責め続けている。

「だから言えんのや。あのには……」

シーニーは深い溜息を吐いた。
真実を知れば、彼女は更に自分を責める。
それが解っているだけに
彼等は【本当の事】を言えずに此処迄来た。

「あのぇ子や。
 優し過ぎるんや……」

何れは知る事になるだろう。
それはシーニーが一番痛感していた。

「G-Cellの覚醒も時間の問題や。
 或いはもう、覚醒しとるかもしれん」

今、それをGruppeグルッペ vonヴォン  Duschenドゥーシェン
知られる訳にはいかない。
知れば最後、奴等は必ず此処を襲う。
【Memento Mori】だけなら対応出来るだろうが
此処を戦地にする訳にはいかない理由がある。

「今の俺等には…
 守るべき者が多過ぎるんかも知れんな」

嘗ては志穂さえ守れれば何とかなると思っていた。
だが、外の世界に出た事で
彼等には協力者が、親しい存在が増えていった。

「その分、昔より強くはなっとると思うけど」

PCモニターに映る不健康そのものな自分の顔を眺めながら
シーニーはフッと笑みを浮かべた。
Home INDEX ←Back Next→