事件ファイル No.9-7

的場一家 惨殺事件・中編

ロッソがベルデの為に鬼と化したのは…
あの研究所に居た間、3回有る。

* * * * * *

一度目はベルデの死後の話を
莫迦にしながら語った研究員をほふった時。
彼は研究員殺害の罪に問われ
独房に閉じ込められ、制裁を受けていた。

『私の所為だ……』

ベルデの名誉を守る為に動いたロッソが
その為にこんな目に遭っている事実。
彼女には耐えられなかった。
直ぐに研究所所長に掛け合い
ロッソを解放してくれるよう懇願したが
彼はロッソの『暴走の危険性』を盾にして
全く取り合おうとはしなかった。

それでもベルデは諦めなかった。
所長を説得で動かせなければ、と
何と彼女は自力で
独房の鍵を解除してしまったのだ。
複雑な電子暗号キーだったにも関わらず。
機械に詳しいシーニーの助力無しで
ベルデはロッソを救助する為に動いていた。

室内の中央に彼は居た。
もう何日間その状態だったのだろう。
目隠しと猿轡を装着させられ
天井から繋がっている鎖で両腕を
壁から伸びた鎖で両足を縛られている。
辛うじて爪先が床に着く高さでの拘束で
彼の両肩はブルブルと痙攣していた。
暗闇でも痩せ細っているのが判る程
ロッソは衰弱していた。
普通の人間ならば、このまま死んでいただろう。

「酷い…。こんな…こんな事って……」

ロッソは気を失っている様だった。
弱々しい呼吸音。
早くこの状態から解放したい。
監視モニターが此方を見ているのも御構い無しで
ベルデは懸命に鎖の切断を試みた。
訓練は まだ始めたばかりで
不慣れな作業続きだったが
彼女は何とか鎖の切断に成功する。
ドサッという音と共にロッソの体が床に落下した。
かなりの衝撃の筈だが、それでも彼は動かない。
否、疲労困憊でもう動ける状態ではなかった。

ベルデを心配し、コッソリ後を付けてきたゲールが
困惑している彼女を見付けたのはその直後。

「彼を部屋まで運んで欲しいの」
「……」
「お願い、ゲール」
「……」

ゲールは確り頷くとロッソの体を担ぎ上げた。
余りに軽くなった彼の体重にギョッとする。
そのままゲールは急いで二人の部屋に向かう。
ベルデも振り返る事無く自分の部屋へと戻った。

* * * * * *

事情を説明された時、
シーニーはずっと渋い顔をしていた。
荒い息を繰り返すロッソを見下ろし
それでも彼は何も言わない。

ベルデはシーニーが怒っていると思っていた。
彼女の自分勝手な行動を。

「私の所為で……」

いつもの様にこの一言が出た。
その瞬間、シーニーの目が更に険しくなった。

「それ。め」
「…え?」
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