事件ファイル No.9-8

的場一家 惨殺事件・中編

「そうやって何でも自分の所為にするの、もうめ」
「シーニー…?」
「だからロッソが動かなアカン様になる。
 ベルデ、お前が悲しむ度に、
 ロッソはその原因を取り除く為に戦うんや」
「…どうして?」
「それは直接ロッソに聞き」

シーニーはそう言うと、部屋を後にした。

「…怒ってるのかな?
 私が勝手な行動を取ったから……」
= 僕は違うと思うな =
「え…っ?」
= ベルデに変わって欲しいんだよ。
 優しいのは勿論大切だけど…
 シーニーはきっと、もっと強くなって欲しいんだ =
「強く…? 私が…?」
= そう。自分の為じゃなくて良い。
 例えば…ロッソの為に、とか =
「ロッソの為に…?」

ベルデはそう言ってロッソを見た。
生々しい傷跡や打撲痕。
こうなると判っていても、
彼は退かなかったのだろうか。
自分の為ではなく、ベルデの為に。

「私の為に、戦ってくれている……」
= そう。ロッソはベルデの為だけに戦ってる =
「ロッソが? 私の為だけに…?」
= そうだよ。ロッソから直接聞いた =
「……」

ロッソは何も言わない。
何時いつだって彼女の前では笑顔で
優しく包み込む様に接してくれる。
ずっと不思議だった。
その優しさが。その温かさが。

「私は……」

先程シーニーに言われた事を思い出す。
ベルデが自分を責める度に
ロッソが傷付いていく。
体だけじゃない。
その心でさえも。

「守りたい……」
= ベルデ…… =
「ロッソを、守りたい…。
 もう…こんな目に遭わせたくない……」

ベルデの流した涙の雫が
ロッソの剥き出しになった胸板に一滴落ちた。
肌に浸透し、消えていくと同時に
周辺の傷が急激に消えていった。

= えっ?! =

思わずゲールが目を見開いた。
想像もしていなかった現象。
涙が落ちた地点を中心に
傷跡が、打撲痕が少しずつ消えていく。

= シーニー、見える?
 これ、どう云う事? =
= G-Cellがもたらす奇跡…としか言えん…… =

この部屋に監視モニターが無くて良かった。
ゲールは一人、胸を撫で下ろした。

『もしかしてベルデは既に…?』

ベルデのG-Cellが既に覚醒していると
シーニーが最初に疑った瞬間だった。

『このままじゃ拙い。
 此処にったら志穂を守り切れん様になる。
 なるべく早く此処を出て行かんと……』

ゲールの目を通じて見守るシーニーに
彼らしくない焦りが生じていた。
未知の存在であるG-Cell。
それがどんな姿を見せるのかすら判らない。
穏やかに時間が流れてくれる事を
この時のシーニーは強く願っていた。
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