事件ファイル No.9-9

的場一家 惨殺事件・中編

商店街の入り口に位置する小さな公園。
ベルデは妙子とベンチに座り
静かに話を続けていた。

妙子は、彼女と鷹矢との思い出話を。
そしてベルデは、研究所時代の話を。

互いに知らない想い人の一面。
複雑な心境で、相手の話を聞いている。

「晋は…ずっと愛情に飢えてたんだと思う。
 無条件で自分だけを愛してくれる人を
 捜し続けていたんだろうなって」
「妙子さんは違うの?」
「私は結局、両親を捨てる迄はいかなかったわ。
 別に捨てなくても、
 説得出来れば良かったんだろうけど
 それすらも叶わなかったから…」
「そっか……」
「嬉しかったんでしょうね。
 貴女からハンカチを貰った日、
 直ぐに私に自慢する位だったから」
「そんなに喜んでくれてたんだ…」
「子供みたいに大はしゃぎだったわ。
 小母おばさんも、晋があんなにはしゃいだ姿は
 初めて見たって言ってた位」
「…両親も姉も、彼を紹介してって言ってたの」
「晋を?」
「えぇ。
 私が初めて好きになった男性ひとだから、
 一度会いたいって」
「そうだったのね……」
「だから本当に楽しみだった。
 日曜日のデート」
「志穂ちゃん……」
「……想いを、伝えるつもりでいたの」
「…奇遇ね」
「えっ?」
「晋も同じよ。
 あの日曜日、貴女とデートしたら
 告白するんだって言ってた」
「……」
「私の気持ちも知らないでって少し腹が立って…
 だから次の日、ニュースで貴女達の訃報を聞いて
 少し、安堵した自分が居た……」
「妙子さん……」
「これで自分が失恋しなくて済んだって…。
 最低だと、直ぐに思い直したけど……」
「…そんな事無いよ」
「志穂ちゃん…?」

ベルデは微笑んでいる。
だが、今にも泣き出しそうな悲しい微笑みだった。

「だって…鷹矢さんを貴女から奪ったのは私なんだもの」
「志穂ちゃん?」
「貴女が一番傍で彼を見てきた。
 それだけじゃない。
 孤独だった鷹矢さんを守って来たのは貴女だった。
 なのに私は、貴女から彼を奪い…
 今も又、彼を傷付けてしまっている……」
「……」
「私の所為で……」

シーニーに諭され、封じていた筈の自責の念。
ベルデは両手を握り締め、俯いた。

「それは違う」
「妙子さん…?」

今度は妙子が笑みを見せた。

「晋は、自分の生き様も死に様も
 誰かの所為になんかしない」
「……」
「貴女は晋の生き甲斐なの。
 蘇った彼と再会して、話をして…
 漸く私も気が付いたのよ」
「妙子さん……」
「最初は【憧れ】だった。
 手の届かない高嶺の花。
 そんな女性が自分に微笑みをくれた時
 彼は悟ったって言ってた」
「…何て?」
「生涯賭けて、守りたい女性ひとだって」
「鷹矢さんが……」
「その時点で決めていたのよ。
 晋は、自分の生き方も死に方も」
「……」

Con te貴女と共に

まるでロッソにそう言われた様な錯覚がした。
確かに、彼からそう言われた事が有った。

『生きるも死ぬも、これからはずっと一緒だ』

そう言って微笑んでくれた。
どんな時も、ずっと一緒に。
ベルデは胸に手を当て、静かに目を閉じた。
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