Act・1-3

NSM series Side・S

「そう云えば…」

立花はふと周りを見渡した。

「ウチって背広着てる人少ないですよね。
 他の班は皆、背広か制服着用なのに」
「そう云えばそうね…」

平尾は眼鏡を直しながら答えた。

「それがウチのカラーなの」

英字新聞を読みながら
鳩村が答える。

「そうなんですか?」
「そう。
 だって考えてみろ。
 大将やジョーに背広が似合うか?」

立花はふと脳裏にイメージを膨らませ
思わず吹いてしまった。

「…だ、駄目です。
 想像出来ない…」

「で、ジョーは?」

鳩村の問い掛けに平尾が答えた。

「トレーニングしてくるだって。
 さっき出て行ったよ」
「書類が溜まってるんだから
 そっちを先に片付けろよな」
「逃げたんじゃないの?」
「有り得る」
「ジョー先輩って本当、
 ストイックな人ですよね。
 暇さえ有ればトレーニング…」
「ありゃ或る意味マゾだよ」

平尾の言葉は結構厳しい。

「言えてるね、それ。
 真性のマゾヒスト。
 あんな風には成るなよ、コウ」
「う~ん…はい……」

立花は困ったような笑みを浮かべた。

一流のアスリートは一種
『マゾヒスト』の傾向にあると云う。
北条の場合もそれに近い気がするのだが。
敢えて批判はしない事にした。

「そう云えばジョーって
 ジュンが結婚してから変わったよね。
 今みたいに」

平尾は相変わらずお喋りを止めない。

「…そうだったっけ?」
「そうだよ。
 アイツ、アコちゃんに惚れてたから」
「一兵……」
「アコちゃんって?」

立花の質問に、
鳩村は新聞で顔を隠してしまった。

* * * * * *

「大将、終わった?」

一人で洗車に格闘中の山県に
北条は缶珈琲を投げて寄越した。

「まだ。手伝ってくれんのか?」
「見てるだけ」
「ケチ」
「ははは…」

北条は無邪気に笑うと
缶珈琲を喉に流した。

「ジョー?」
「ん?」
「背広って動き難いよな」
「そうっすね」
「ハトの奴、何であんな格好で
 動き回れるのかね?」

「そう云えば…」

北条は空を見上げて呟いた。

「団長の背広姿。
 俺…憧れてたな……」
「そうだな。
 …良く似合ってた」
「ハトさんは…団長に近付きたいのかも」
「…そうなのか?」
「そう、感じません?」
「さぁね」

山県も缶珈琲を飲むと
黙って空を見上げた。

「…背広、ねぇ~」

綺麗に磨かれたスーパーZ。
其処に写る空が輝いている。

「俺も一度着てみるかな?」
「大将が?」
「何だよ?」
「…似合わない」

北条が笑い出し、
山県はムキになって
ホースの水を彼に浴びせた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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