Act・1-4

NSM series Side・S

宿直の平尾を残し、
軍団の面々は行きつけの店に向かう。
その途中。

「あれ?」

背後から女の声がした。

その声にビクンと肩を震わせる北条を
立花は不思議そうに見ていた。

「皆、久しぶり!」
「アコちゃん! 元気か?」

山県の声に明子は嬉しそうに頷く。

「お陰さまでね。
 ジョーさん、この間は有り難う!」
「あ…あぁ……」
「何? 何か遭ったのか、ジョー?」
「……」

北条は俯いたまま何も話そうとしない。

「何か遭ったの、アコちゃん?」

鳩村が直に明子に問うと
彼女は恥ずかしそうに話し出した。

「実はね。
 …喧嘩したんだ、純と」
「ジュンと?」
「うん。それで…
 夜、街をブラブラしてたらジョーさんに会って…。
 それから夜通し、私に付き合ってくれて」
「夜通しっ?!
 ジョー、お前…」

「あ、話を聞いてくれてただけよ 大将。
 ずっと、私の愚痴を延々とね」
「ふ~ん…」

山県はまだ疑った目をしているが
立花は何となくだが理解出来た。

『先輩、この人の事が好きなんだ…』

「で、上手く行ってるの?」
「えぇ、ハトさん。
 何とかやってるわ。
 純は相変わらず仕事仕事、だけどね」
「男は仕事が恋人なのさ」
「そんな事言って…
 ハトさんも大将も良い人見つけないと!」

明子は無邪気に笑っている。
その笑顔も、北条には辛いものだろう。

立花はその場から隠れるようにして立っている
北条の姿をじっと見つめていた。

* * * * * *

「ジョー先輩、帰っちゃいましたね」

立花はグラスを鳴らし、
鳩村に語りかけた。

「…そうだな」
「アイツもなぁ…
 吹っ切れば良いのに。
 何時までも終わった事を…」

「ジョー先輩って
 その、あの人と…」
「付き合ってはいなかった筈だぜ」
「え?」
「ジョーの一方的な片思い。
 然も告白も無し。
 …未だにな」
「もう無理だろう?
 相手は嫁さんだぜ?」
「だな…」

鳩村はそう呟くと
薄くなったバーボンを舐める。

「そうだったんですか…」
「あぁ…」
「それ以来だよ。
 ジョーがすっかり女苦手になっちまったのは。
 捜査にも支障きたすんだよな、正直…」

「そう云えば、女の取調べ…」
「しないだろ、アイツ。
 世話が焼けるぜ…」

山県はボトルの追加を頼んでいる。

こんな言い方だが、
心配しているのだ。
二人共。

「素直じゃないんだから…」

立花の呟きは山県に聞こえない。

溶けて行く氷に
立花は北条の仄かな恋心を見た様な気がした。
余りにも切ない恋心を。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
Home Index ←Back Next→