Act・1-8

NSM series Side・S

デパートのエレベーターの一機が
故障で動かなくなったらしい。

「レスキューは?」
「駄目だ、間に合わない」

鳩村の声に、
北条は係員から何かを借り出した。
工具とザイル。

「ジョー?」
「先ずは扉をこじ開けます。
 その後 俺、ザイルで体固定しますから
 援護お願いします」
「お前…?」

「嫌な音がするんです。
 時間が無いかも知れない」
「良し、任せろ!」

山県が素早くザイルを北条に固定し、
端を柱に括り付けた。

「工具貸せ、ジョー。
 一気にドアを抉じ開けるぞ」

鳩村と共に北条はドアを開け始めた。

ギシギシと音がする。
嫌な音だ。

「…急がないと」

僅かに開いた隙間に腕をこじ入れ、
北条は中にいる客を確かめた。

少しずつエレベーターが下に沈んでいく。
此処は3階。
このまま落ちれば…。

「!」
北条は意を決し、中に潜入した。

* * * * * *

「泣かなくて良いよ。
 大丈夫だから」

時には子をあやしながら
次々と中の人々を救出する。

「…ジョーさん」

最後に残ったのは
明子だった。

偶然にも、二人は再会した。
事故現場での再会。

彼女もまた、
不安の中で人々を励ましていたのだろう。
『大門 圭介』の思いを受け継いだ者同士。

「手を…」

北条がそう言うと
エレベーターがガタンと揺れた。

「アコちゃん!!」

北条は思い切って
彼女を抱き締めた。
そしてザイルを掴む。

「上げて下さいっ!!」
「よしっ!!」

山県が即座に答え、
ザイルが上げられる。

北条はしっかりと彼女を抱き締めたまま
何とかフロアに向かおうと
空中で体を安定させようと必死だ。

「コウ…
 彼女を……」
「は、はいっ!」

立花は明子を抱き留めると
フロアへと運び上げた。

「ジョーッ!!」

鳩村の声に、
北条は手を振って答える。

ザイルが命綱となり
彼はそれを伝ってフロアに上がった。

直後、エレベーターが真下に落下した。
間一髪だった。

「切れたんだな…」
「その音だったんだ…」

北条は落下したエレベーターの残骸を見つめていた。

「間に合って、良かった…」

冷や汗が流れてくる。
手が痛む。
ザイルを握り締めた手が
血で滲んでいた。

「ジョーさん…」

明子がそれに気付き、
そっとハンカチを当てた。

「有り難う…ジョーさん…」
「アコちゃん…」
「来てくれるって…
 信じてた」

軍団員は北条に遠慮してか
そっと場を離れた。
せめてもの思い遣り。
今は二人だけにさせてやろう。
命を掛けた北条の恋に。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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