Act・10-10

NSM series Side・S

「なぁ、功」
「なぁに、お兄ちゃん?」
「お前の将来の夢って、何だ?」
「僕はねぇ~」

* * * * * *

懐かしい夢を見た。
あれはきっと、あのドラマの所為だな。
大人気で今度映画化もされるらしい。

砂漠の荒野

兄貴が主演と聞き、是非とも見たいと思った作品。
念の為に録画もセットし、
見逃した時の為にも備えてある。
画面越しに見た兄貴の姿に最初は驚き
正直、声が出て来なかった。

父が其処に居ると、錯覚したから。

* * * * * *

「やっぱりこうして見ると兄弟なんだよね」
「こら、一兵!
 署のTVでビデオ見るな!」
「班長、これだけは大目に見てくださいよ!」

一件も通報の無い、嘘みたいに平和な時間。
態々あの作品のビデオを持って来てくれたのは
一兵さんの心配り…だと思っておこう。

「どうした、コウ?」
「あ、ハトさん。
 …兄貴、凄いなぁ~と思って」
「何で?」
「トラウマだったんです。
 刑事役、一生出来そうにないって
 昔話してて……」
「成程な」
「でも、今こうして堂々と主役張って…。
 我が兄ながら凄いなぁって…」
「彼奴が聞いたら泣いて喜びそうだな」

ハトさんはそう言って笑っている。
この人もそうだ。
数々の事件を解決していく中で
色々と傷付いて、打ちのめされて
それでもあきらめずに前を向いて
戦い続けている。
ハトさんだけじゃない。
此処に居る人は、皆……。

「で、受け取ったのか?」
「はい?」
「これは龍からお前への挑戦状だ」
「挑戦状?」
「そう。彼奴は目の前の壁を鮮やかに乗り越えた。
 まぁ…ぶち破っただけかもしれんが、
 取り敢えずは前進した訳だ」
「……ハトさん」

「The next challenger is you.
 (次の挑戦者はお前だ)」

ハトさんはそう言って
指で拳銃を作り、陽気に弾を撃って見せた。

「大丈夫だ、お前なら」
「ハトさん、どうして…」

『どうして俺をそんなに買ってくれるんですか?』

そう口にしかけた瞬間
ハトさんの背後で
誰かが微笑んでくれた様な気がした。

『ハトを、頼んだよ』

「えっ?」
「どうした、コウ? こんなに声を上げて」
「い…いえ、只…ハトさんの後ろに誰か…」
「背後に?」

ハトさんが後ろを振り返ったが
勿論其処には誰も居ない。
だけど、ハトさんは何処か
納得した様な表情を浮かべていた。

「…そう云う時期か。
 出来ればこの時期だけは
 外して欲しかったけどさ」

そう言って笑うハトさんの目には
薄らとだが、涙が光っていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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