Act・10-9

NSM series Side・S

「で、決めたんだ」

覆面パトカー内での会話。
山県から切り出された話に
北条は多少面食らった様だ。

「刑事を止める気は毛頭無い。
 だがな、親父を安心させるってのも
 確かに必要だなぁ~ってさ」
「それだけ?」
「ん?」
「結婚の決め手になったのって、それだけ?」
「どう云う意味だよ?」
「いや、大将 悩んでたよな。
 自分の立場って奴?
 板挟み状態になってさ」
「まぁな」
「でも、それだけじゃないだろ?」

北条は不意に笑みを浮かべた。
少年っぽさは確かに残っているが
どちらかと言えば精悍な漢の顔。

「団長もよく言ってた。
 課長もそうらしい」
「何が?」
「自分が家族を持つ事で
 その『守りたい家族』が
 輩に狙われる危険性」
「……」
「そりゃ一瞬でも考えるよな。
 それだけ大切に想ってる相手なら尚更」
「お前はどうなんだよ、ジョー?」
「はい?」
「彼女と、その…まだ遣り取りしてんだろ?」
「彼女?」
「ほら、え~っと確か…吉岡…」
「沙耶ちゃん?」
「そう、その…え?」

今度は山県が面食らった。

「そりゃそうだろ?
 将来の事も有るんだし」
「お…おぅ」
「結婚とか家庭とか、
 悩んでるのは大将だけじゃないって事」
「となると、一兵も?」
「一兵さんが一番速いんじゃない?」

同僚とまさかこんな話をする時が来るとは。
時間の流れがなせる業か。

「ま、何だ」

咳払いをしながら、山県が呟く。

「お前等はその、焦んな。
 こういうモンは、その…」
「…言いたい事は解るよ、大将。
 大丈夫。俺達は俺達のペースで進むから」
「そうか……」
「長く心配かけ通しだったからな、大将にも」
「そうだぞ! 今度寿司奢れ、コイツ!!」
「じゃれ付くなって! 今運転中だっての!!」

大声で笑い合うそんな有り触れた日常が
こうして確かに帰って来た。
だが、決してそれは昔のままではない。
流れた時間の分だけ、
男達は確かに成長していた。
憧れていたあの存在を目指して。
それぞれが、それぞれのペースで。

「団長や課長が叶えたくても叶えられなかった夢。
 それを俺達が叶えるってのも…
 なかなか凄い事じゃねぇかな」
「それは言えてるな。
 一人では不安でも、今は少なくとも
 3人は同じ立場の奴が揃うんだし」

そう言って笑う北条に対し
不意に山県は違和感を覚えた。

「ジョー」
「何?」
「お前、アレ着けてないのか?」
「アレ?」
「ほら…」

山県はそう言って、自分の胸元に指を当てる。
そのアクションで何を伝えようとしているのか
北条には理解出来たらしい。

「あぁ、ペンダント」
「そう! あんなに大切にしてたじゃねぇか」
「…返したんだよ」
「ん?」
「俺はもう大丈夫だからってな」

少し寂しげな微笑みを浮かべながらも
北条の目には迷いの色が一切無かった。

「…そっか」
「これで漸く、団長も安心してくれるんじゃないかな」
「まぁなぁ~」

目の前には青い空。
そして、眩い光に照らされたコンクリートジャングル。
自分達が守るべき、大切な場所。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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