Act・11-1

NSM series Side・S

「俺達にはまだ明日がある。
 だからこそ、
 此処で諦める訳にはいかないんですよ!
 そうでしょ? ハルさん!」
「…それでこそ、真田だな」

* * * * * *

何気無い台詞の応酬の筈なのに
何故かとても心に残る遣り取り。

立花はそれが何を意味しているのかが
気になって仕方がなかった。
そして。

『ハトさんが欲しいのは…
 果たして『可愛い後輩』なんだろうかね?』

不意に思い出す、北条の意味深な言葉。
彼は自分に何を伝えようとしていたのか。

ボンヤリとドラマのエンドロールに目をやる。
最初に登場する兄の芸名。
そして、トリを務めるのはその相手役。

【沖田 雅也】

その名を見た瞬間、
立花は全身に電流が流れた様な衝撃を受けた。
北条が投げかけた【宿題】とその【答え】。
彼は、そして平尾も、知っている筈だ。
その男の事を。

「沖田 五郎…巡査」

先日、聞こえてきた声。
その後の鳩村の言葉。

『…そう云う時期か。
 出来ればこの時期だけは
 外して欲しかったけどさ』

「あの声は…沖田さんの声。
 ハトさんは、そう思ったって事か…」

沖田 五郎の消息はその後も判らぬまま。
生きているのか。
それとも、故人なのか。
どちらとも判断が出来ないまま
鳩村は今も、その存在を大切に思っている。
だが…何時迄もそのままの状態を維持出来る程
人の心と云うものは強固ではない。

「ハトさんが望んでいるのは…」

『ハトを、頼んだよ』

まるで自分の迷いに答える様に
優しく自分に語り掛けてくれた声。
ずっと、そう在りたいと思っていた。
だが心の何処かで、
その思いを烏滸がましいと感じてもいた。
ずっと迷っていた。
鳩村が待っていてくれたのにも関わらず。
そして、それはきっと他の仲間達も…。

「俺は……」

* * * * * *

肩から、全身から余分な力が抜けていく。
今迄の重苦しさがまるで嘘の様だ。
怖じ気付いていたんだな。
無理もない。
あの大門軍団の面々と共に
この街を守ると決まった瞬間から
俺は何処かフワフワと安定感の無い状態で
必死に藻掻いていただけだったんだ。

だからこそ、見えていなかった。
最も近くに居た人の事が。
いや、そもそもちゃんと
真っ直ぐに見ようとしていたんだろうか。
怖じ気付いて目を背けてはいなかっただろうか。
ハトさんの苦しみや悲しみを
ちゃんと受け入れようとしていただろうか。

「そう云う事なんだよな、兄貴。
 俺、漸く解ったよ」

受け入れた瞬間、それ迄の悩みが如何にちっぽけか。
そう思うと、不意に笑いが込み上げてきた。

そうさ。胸を張れ。
俺はハトさんが認めてくれた
ハトさんの【相棒】なんだから。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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