Act・10-3

NSM series Side・S

「【遊び】だったんですよ」

喜多は静かに語り出した。

「いわゆる金持ちの道楽でね。
 ボンクラ共が刺激を求めて
 警察を挑発し出した。
 当然、事件を摘発しようとしたところで
 親がしゃしゃり出て来て有耶無耶、ですよ」
「だから調書もこの纏め方、
 と云う訳ですか。
 そりゃむかっ腹も立ちますな」
「で、面白いのはこの先でね」

喜多はそう言うと、1枚の写真を取り出した。

「テレビゲームの…カセット?」
「御名答」
「これが、切っ掛け…ですか」
「アレですよ。
 サブリミナル効果って奴」
「成程。ゲームをしている内に
 命令を刷り込まれる、と」
「そう言う事です。
 ウチにもPCに詳しい奴が居ましてね。
 気になるから其奴に解析させたんですよ。
 それが此方です」

喜多が差し出した一枚の紙。
A4版の印刷用紙に打ち出されたそれは
特定の人物に対する
尋常ではない恨みが込められていた。

「このゲームを販売していた企業は
 既に倒産していました。
 会社自体も国内に在る訳では無く
 特殊なルートで流通していた事も
 此方で掴んでいます」
「やはりこれは、明らかに…」
「と、なるでしょうね。
 メッセージは英語で刷り込まれていましたし
 それが理解出来る人間のみ
 サブリミナル効果の影響を受けた訳ですけど」
「購入者のリストは?」
「当たってみたんですけど、
 流石に追い切れませんでしたね」
「正規ルートの流通でなかったのも
 足が着くのを恐れての事かも知れない」

もう少しで本丸に辿り着けたと云うのに。
小鳥遊は無意識に下唇を噛み締めていた。
悔しかった。
本当に、あと少しの所迄来たのだ。

「援護射撃になるかどうか判りませんが」

喜多は更に何かのリストを出してきた。

「やらかした輩とその背後関係、
 やらかした【おいた】の内容を
 コッソリとリストアップ
 しておいたんですがね。
 …要ります?」
「喜多さん…!」

小鳥遊は喜多の両手を握り締めた。

* * * * * *

【それ】の恐ろしさは
体感したからこそ俺にはよく理解出来る。

抜け出せない闇の中でもがき苦しむ。
自分の向こう側で起こる悲劇を
ただ黙って見つめるしかない。
楔を解き放つ為には…
目の前で誰かが死ぬしかない。

あの時は団長が己の生命を賭けてくれた。
だから今度は…此奴の為に、
此奴と妹さんの為に
俺がその役を買って出る。
だからこそ、しくじるなよ…ハトさん。
アンタだって解る筈だ。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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