Act・10-5

NSM series Side・S

「What's happened(何なの)?!」

ヒステリックに叫ぶ女。
口にしていた煙草の様な物を
乱暴に灰皿へと押し付けた。

ボスからの指令でモニターを見ていた筈が
開始直後に通信が途切れた。
見られていた対象がモニターの存在に気付き
破壊したと云う事なのだろう。

「Cheeky Jap(生意気な)!」

怒りに任せ、席を立とうとした時に
背後に何者かの気配を感じた。

「?」
「Excuse me,Lady(失礼します)」

立っていたのは平尾と立花だった。
女は怪訝そうに二人の顔をジロジロと見た。

「What's wrong(何の用)?」
「通訳が必要ですか?
 貴女、或る人の通訳の経験が有りましたよね」
「それが…何かしら?」
「詳しくお話を聞きたい事が有りまして。
 署迄御同行願います」
「任意同行って事?
 それならば、私に拒否権も有るわよね」
「残念ながら……」
「え?」
「貴女に逮捕状が出てます。
 続きは西部署の取調室でお願いしますね」

あくまでも紳士然とする平尾に
女は抵抗する事無くすんなりと連行を同意した。
独特の香水臭が周辺に立ち昇る。
その香りが何処か、彼女の孤独感を漂わせる。
立花は女を横目で見ながら、そう感じた。

* * * * * *

「射撃の腕、落ちたんじゃないのか?」
「そっちこそ、息が上がってるじゃないか。
 体力落ちたね…」
「デスクワークばかりじゃ、鈍るな。体が」
「肩で息する様じゃ…現場は引退、かな?」

背中合わせで道路に座りながら
二人は顔を合わせる事無く笑った。
現場で泥だらけになって笑うなんて
いつ以来の事だろうか。

「…ハトさん」

北条が不意に口を開く。

「何だ?」
「ずっと、伝えたかった事が有る。
 今迄は拒絶されてる気がしたから
 なかなか言い出せなかったんだが…」

その一言で察した。
誰からかのメッセージ。

「今の俺なら、言えそうか?」
「あぁ。言える」
「教えてもらえるか?
 …団長からの、言葉」
「ハトさん…?」
「そう云う事、なんだろ?」

鳩村はそう言って、
改めて北条に向き直った。

「もう逃げてもいられないからな。
 何時迄も過去にこだわって、
 今ですら満足に生きられてないなら…
 俺は団長に合わせる顔が無い」

漸く、そう言える様に成れた。
喪った悲しみは決して消えない。
だが、形を変える事で
生き残った者達が一歩進める様になる。
彼はその瞬間を待っていてくれたのだろうか。

「団長からのメッセージは二つ。
 一つは『俺と同じに成るな』」
「同じに成るな…。
 真似だけで満足するなって事か。
 何だよ、見抜かれてるな…」

鳩村は苦笑を浮かべている。
嘗て大門に憧れ、
彼の側で彼の一挙手一投足を
自身に叩き込んだ日々。
大門はそんな鳩村を
どんな思いで見つめていたのだろう。

「それと、二つ目。
 実はこっちの方が大切」
「何だよ?
 勿体ぶらずに言えよ」

北条は悪戯っぽい目で笑っている。
そして、静かに告げた。

「You are yours.
 (お前は、お前のままでいろ)」

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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