Act・10-6

NSM series Side・S

「綺麗な便箋だね」

背後から声を掛けられ、振り向いて笑みを浮かべる。
声の主は手紙に興味津々の様だ。

「パステルカラーか。
 ジョーのイメージに合わせた色なのかな」
「だと思いますよ」
「へぇ~。解るんだ?」
「そりゃ。俺の好きな色だって伝えてたから」
「あ…。そう」
「あ、こっちの方は一兵さんが読んでも大丈夫な分。
 軍団員宛だそうだから」

北条はそう言ってもう一枚の便箋を平尾に渡した。
平尾は眼鏡を少し動かし、手紙を読み始める。

「一兵さん、老眼?」
「違うよ! 癖になってるだけ!!」

暫く無言で読み進め、平尾はふと北条に問うた。

「これで良かった、んだろうね。
 彼女等兄妹にとっても…」
「沙耶さんは純粋な被害者だけど
 兄貴である吉岡は違う。
 罪は罪として、確り償わないと」
「それは…勿論、そうだね」

北条は視線を青空に移した。
白い雲が静かに流れている。

「サブリミナルによるマインドコントロール」
「え?」
「嘗て俺自身が食らった曰く付きの洗脳。
 覚えてるよね、一兵さん?」
「あぁ、忘れられないって。
 あの時は団長が命張って
 お前を洗脳から解き放ったんだよな」
「吉岡の状態が嘗ての俺と酷似してるって感じてさ」
「じゃあ、石川教授の研究が又 悪用されて…?」
「恐らく、洗脳のノウハウは持ってるんだろうな。
 各国の悪い輩がさ。
 俺の事件も、実際に行えばどうなるかっていう
 実験だったのかも知れないし…」
「質が悪いね、それは…」
「黒幕がハトさんを何が何でも排除しようとしたのも
 そう考えると納得出来ると言うか」

でも、と北条は続ける。

「そう巧くはいかないって事だよ。
 悪事なんてさ、足が付けば脆いモンだ」
「随分と大人に成ったね、お前」
「一兵さん…。俺を幾つだと思ってんの?」
「いやぁ~、散々ジョーさんには
 振り回されっぱなしだったからね」
「それ認めちゃうと、一兵さんは
 相当なおやっさん扱いになっちゃうけど」
「そ、それはっ! それだけは御免被りたい!!」

平尾は沙耶からの手紙を丁寧に畳むと
足早にその場から駆け出した。
穏やかな表情でその背中を見送ると
北条は再び、自分宛の手紙を読み出した。

* * * * * *

課長室には木暮と小鳥遊、
そして鳩村と立花が居た。
小暮は彼等に着席を促すと
グラスに琥珀色の液体を並々と注いだ。

「か、課長! まだ勤務中…」
「安心しなさいよ、ハトさん。
 これはブランデーじゃない」
「これは…お茶、ですか?」
「流石だね 班長。
 これはね、高崎君からの差し入れ」
「えっ?!」

自分の兄からの差し入れと聞き
思わず立花が声を上げた。

「此処だけの御内密にって事でね。
 例の機材が降って来た事件。
 無事に解決したんでってそのお礼」
「捕まったんですか、犯人」
「勿論。だからこその善意の差し入れですよ」
「課長……」

恐らくは何かの手を回して、
再調査をさせたのだろう。
この木暮という男の食らい付きは
スッポンでさえも匙を投げる程にしつこい。
改めて、恐ろしい男を上司に持ったものだと
其処に居た三人は口に出さずとも痛感した。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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