背後から声を掛けられ、振り向いて笑みを浮かべる。
声の主は手紙に興味津々の様だ。
「パステルカラーか。
ジョーのイメージに合わせた色なのかな」
「だと思いますよ」
「へぇ~。解るんだ?」
「そりゃ。俺の好きな色だって伝えてたから」
「あ…。そう」
「あ、こっちの方は一兵さんが読んでも大丈夫な分。
軍団員宛だそうだから」
北条はそう言ってもう一枚の便箋を平尾に渡した。
平尾は眼鏡を少し動かし、手紙を読み始める。
「一兵さん、老眼?」
「違うよ! 癖になってるだけ!!」
暫く無言で読み進め、平尾はふと北条に問うた。
「これで良かった、んだろうね。
彼女等兄妹にとっても…」
「沙耶さんは純粋な被害者だけど
兄貴である吉岡は違う。
罪は罪として、確り償わないと」
「それは…勿論、そうだね」
北条は視線を青空に移した。
白い雲が静かに流れている。
「サブリミナルによるマインドコントロール」
「え?」
「嘗て俺自身が食らった曰く付きの洗脳。
覚えてるよね、一兵さん?」
「あぁ、忘れられないって。
あの時は団長が命張って
お前を洗脳から解き放ったんだよな」
「吉岡の状態が嘗ての俺と酷似してるって感じてさ」
「じゃあ、石川教授の研究が又 悪用されて…?」
「恐らく、洗脳のノウハウは持ってるんだろうな。
各国の悪い輩がさ。
俺の事件も、実際に行えばどうなるかっていう
実験だったのかも知れないし…」
「質が悪いね、それは…」
「黒幕がハトさんを何が何でも排除しようとしたのも
そう考えると納得出来ると言うか」
でも、と北条は続ける。
「そう巧くはいかないって事だよ。
悪事なんてさ、足が付けば脆いモンだ」
「随分と大人に成ったね、お前」
「一兵さん…。俺を幾つだと思ってんの?」
「いやぁ~、散々ジョーさんには
振り回されっぱなしだったからね」
「それ認めちゃうと、一兵さんは
相当なおやっさん扱いになっちゃうけど」
「そ、それはっ! それだけは御免被りたい!!」
平尾は沙耶からの手紙を丁寧に畳むと
足早にその場から駆け出した。
穏やかな表情でその背中を見送ると
北条は再び、自分宛の手紙を読み出した。
課長室には木暮と小鳥遊、
そして鳩村と立花が居た。
小暮は彼等に着席を促すと
グラスに琥珀色の液体を並々と注いだ。
「か、課長! まだ勤務中…」
「安心しなさいよ、ハトさん。
これはブランデーじゃない」
「これは…お茶、ですか?」
「流石だね 班長。
これはね、高崎君からの差し入れ」
「えっ?!」
自分の兄からの差し入れと聞き
思わず立花が声を上げた。
「此処だけの御内密にって事でね。
例の機材が降って来た事件。
無事に解決したんでってそのお礼」
「捕まったんですか、犯人」
「勿論。だからこその善意の差し入れですよ」
「課長……」
恐らくは何かの手を回して、
再調査をさせたのだろう。
この木暮という男の食らい付きは
スッポンでさえも匙を投げる程にしつこい。
改めて、恐ろしい男を上司に持ったものだと
其処に居た三人は口に出さずとも痛感した。
お題提供:[刑事好きに100のお題]