Act・10-7

NSM series Side・S

大きな事件の後の会議は少々気が抜けてしまう。
書類の束を抱えながら廊下を歩いていると
誰かがヒョイとその書類の束を持ち上げてくれた。

「ジョー先輩」
「それじゃ前が見えないだろ。
 危ないぞ」
「いや、見えてますって。
 そんな、子供じゃあるまいし…」
「いや、荷物を抱え過ぎなんだよ。
 それじゃ次の行動に直ぐ移れない」
「う~ん…。御尤も……」
「お前は人よりも少し、荷物を持ち過ぎなんだ。
 刑事って立場の事も、兄貴の事も、色々とな」
「ジョー先輩?」
「お前、ハトさんの事好き?」
「は? え? いや、尊敬とかそう云うのならば解りますけど…」
「ん? じゃあ、尊敬で良いや。どう?」
「勿論尊敬してますよ! 偉大な先輩です」
「ふ~ん……」

ジョー先輩はいまいち不満げな声で返事をした。
何がいけなかったんだろうかと思案する。

「ハトさんが欲しいのは…
 果たして『可愛い後輩』なんだろうかね?」
「はい?」
「俺からの宿題。期限は…そうだな」

先輩は何げなく時計に目をやった。
まさか今日中に回答しろとか言うんじゃないだろうな。

「また今度、俺が聞きに来た時迄にしよう」
「え? そんなアバウトな!」
「キッチリ期限を決めるのも変な話だろ?
 じゃあな。頑張って」
「あ、先輩!」

ジョー先輩はそのまま書類を持って
春風の様に去って行ってしまった。

「…何なんだよ、一体?」

先輩が残していった【宿題】に
俺は頭を抱えるしかなかった。

* * * * * *

それから数日が過ぎた。

ジョー先輩はあれから何も言ってこない。
つまりは、まだ期限が来ていないという
解釈で良いんだろうか。

ハトさんが求める存在、か…。
余りにも漠然とした宿題に
如何返答をするべきなのか悩んでしまう。

「どうしたの、コウ君?」
「あ、一兵さん」
「何? 悩み事?」
「【宿題】です」
「?」

俺は一兵さんに掻い摘んで説明した。
彼は静かに話を聞いてくれた。
そして、一言。

「こりゃ、コウ君にしか解けない問題だわ」
「えぇーーーっ?」
「うんうん。ジョーにしては良い問題出した」
「え? 一兵さんには答えが判るんですか?」
「ううん。全然」

一兵さんは実にあっけらかんとしている。
折角相談したのに。
俺が見るからに落胆していると
彼は優しく肩を叩いで元気付けてくれた。

「大丈夫だよ、コウ君。
 もう答えは見付けてるも同然だから」
「…はい?」
「後は着地点を決めるだけだ。
 だからさっき言ったろ?
 『コウ君にしか解けない』ってさ」
「一兵さん……」
「もう少し頑張って御覧」
「…はい」

この人に相談したのは正解だったかも知れない。
俺はそう感じ、笑みを浮かべた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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