Act・10-8

NSM series Side・S

どんな事件でも、
諦めなければ必ず突破口が見えてくる。
数々の難事件も
地道な内偵捜査が功を奏した。
少しずつ、穏やかな時間が戻って来るのを
功はひしひしと感じ取っていた。

* * * * * *

CORNER LOUNGEの一角。
珈琲の良い香りが鼻腔を擽る。
鳩村は其処で小鳥遊と会っていた。

「まぁ確かに…署内ではなかなか
 こう云う話はやり辛いからな」

小鳥遊はそう言って笑っている。
その横顔を静かに見つめる鳩村に対し
彼は静かにこう言った。

「似てないだろう」
「はい?」
「先輩後輩の間柄で
 あの人の影響を受けたにも関わらす」
「…えぇ」
「若い頃はそれが苦痛でね。
 どうしてあの人と同じ様に出来ないのかと
 自己嫌悪の日々だった」
「班長が、ですか?」
「そうだ。
 俺にとって大門 圭介と云う漢は
 それだけの価値がある存在だった。
 単なる憧れだけじゃない。
 そうなりたいと思わせる何かを秘めていた」
「…そうなんですね」
「だがな」

小鳥遊は珈琲で喉を湿らせると
一瞬だけ目を細めた。

「それじゃ駄目なんだと、或る日気付いた。
 いや…正確には気付かされた」
「……」
「他ならぬ、大門 圭介本人にな」
「団長が……」

小鳥遊は静かに当時を振り返った。

* * * * * *

『小鳥遊。
 お前は自分に成り代わりたいのか?』

大門から突然突き付けられた言葉に
小鳥遊は何も返せずにいた。

『お前が見ているのは、一体【何】だ?』

何だと言われても、先輩である大門の背中を追い掛け
此処迄必死に食らいついて来たのだ。
だが、彼はそれでは足りないと言う。

『お前は何の為に生きる?
 誰の為に?
 お前の人生は、誰の為の人生だ?』
『先輩……』
『自分がお前の人生を歩めないの同様に
 お前も又、己の人生を歩む事は出来ない。
 自分達は、自分達の生き方をしていくしかない』

誰かの真似をするだけの人生ではなく
自分にしか出来ない人生を歩め。
参考にするのは構わんが取り込まれない様にしろ。

『お前は、誰だ?』

大門はそう言って笑っていた。
太陽の様な輝きを放つ笑み。
その笑みを見た瞬間、小鳥遊は悟った。

* * * * * *

「この人には敵わんな、とね」
「班長……」
「お前は昔の俺にそっくりだ」
「えっ?!」
「まぁ、それも仕方が無かろう。
 憧れている人物が同じではな」
「は…はぁ……」

如何返答すれば良いのか
考えあぐねている鳩村を見ながら
小鳥遊は何となく
あの時の大門の気持ちが解った様な気がした。

『私なりの歩き方で…
 少しは貴方に近付けましたかね?』

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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