Act・2-4

NSM series Side・S

チリンチリーン

通り過ぎていく自転車を
立花は眩しそうに見つめている。

「コウ?」

鳩村は何があったのかと
不思議そうな眼差しを向けた。

「コウ…」
「あ、済みません。
 行きましょうか、ハトさん?」

「自転車が羨ましいのか?」
「いえ…」
「じゃあ…何だ?」
「自分が見ていたのは…」

自転車に乗っているのは
巡回中のお巡りさん。

「…訳有りだな。
 聞かせろよ」
「大した事じゃないですよ」

立花は苦笑している。

「子供の時、迷子になった事があって…」

静かに、立花は語り始めた。

* * * * * *

家族と一緒に行った移動遊園地。
其処で彼は兄、隆と共に
お化け屋敷に入った。

兄と一緒なら怖くない。
そう思っていた。

だが、人込みに紛れ
進んで行く内に…
掴んでいた兄の手が
無くなっていた。

小さな手が空を掴む。

お化けは怖くなかった。
暗闇も怖くなかった。

ただ。
一人で居る事が怖かった。

「お兄ちゃん……」

何とか一人でお化け屋敷を出たものの
其処には兄も両親も居なかった。

本当に一人きり。
涙が溢れてくる。

まさか自分を置いて
皆帰ってしまったのだろうか?
そんな不安まで過ぎる。

時間がコクコクと過ぎていく。

「お父さん…
 お母さん…
 お兄ちゃん……」

どうして手を放してしまったんだろう?
どうして…?

言葉は涙に代わり、
ただ大きな目から零れ落ちるのみだ。

「…僕、一人になっちゃった……」

* * * * * *

やがて夕暮れが迫ろうとした時。

チリンチリーン

自転車のベルの音。
そして…。

「どうした、坊主?
 迷子か?」

人懐っこい笑みを浮かべ
一人の青年が声をかけてきた。

「お父さんとお母さんは?
 …はぐれちゃったのか?」
「…うん」

「何処で?」
「あそこ……」

「…お化け屋敷か。
 そりゃ厄介だな……」

青年はウ~ンと唸った。

青空を思わせる服と帽子。

「よし!
 お兄ちゃんが探してやる!」
「えっ?」

「お前のお父さんとお母さん、
 お兄ちゃんが捜してやるからな!!」
「…お兄ちゃんが?」

「あぁ。
 さぁ、自転車に乗って!
 しっかり掴まれよっ!!」

青年は彼を優しく抱き上げると
後部座席に座らせた。

* * * * * *

「成程…」

鳩村は煙草を燻らせ、
相槌を打った。

「その男が『お巡りさん』だったのか」
「えぇ…。
 御蔭で自分を捜していた
 家族とも会う事が出来ました」

立花の笑みを見ていると
その時の思い出が
とても彼に良い影響を与えた事が解る。

彼が警察官に誇りを持っているのも
きっと……。

「行きましょう、ハトさん!」

立花の声に鳩村は微笑んだ。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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