Act・2-6

NSM series Side・S

「放火?」

電話を受けた平尾が素っ頓狂な声を上げた。

「何処で?
 …ふんふん、了解」
「何処?」
「何でもマンションの塵集積所らしいよ。
 大将、急行しよう」

「あぁ。
 …で、あの莫迦共はメシか」
「メモ残しておくよ」

平尾に急かされ、
山県は愛用の上着を羽織った。

* * * * * *

「出火元はこのダンボールか…」
「明日は廃品回収の日だったんです。
 その地域のボランティアで…」
「そうだったんですか…」

「なぁ、一兵?」
「はい?」
「…一寸」

山形は周囲に視線を泳がせ、
様子を伺いながら
平尾に耳打ちする。

「これで3件目だ。
 然も…現場は全てこの周辺」
「同一犯ですかね?」
「あぁ…。
 然もホシは決まって
 『ダンボール』か『雑誌』を燃やしている…」
「そう言えば…」

「張り込むか」

山県には何か考えがあるらしい。

「解ったよ。
 班長には僕から伝えておく」
「済まねぇな」

「班長苦手だモンね、大将は」
「……!」

図星を突かれ、
山県がガクッと体勢を崩した。

* * * * * *

同じ学区内。
そして明日が回収日。
ホシは必ず『此処』を狙う。

山県は待った。
春だというが、風はまだ冷たい。

「……」
その鋭い眼光は
真っ直ぐにターゲットを見つめている。

そして。

消灯した自転車が近付いてきた。
影は静かに集められたダンボールに近付き…。

「…其処までだ、ボウヤ」

山県はライターの握られた手を掴み上げた。

「こんな事だろうと思ったぜ」

相手は中学生だろう。
塾通いの帰りか。
自転車の籠には学生鞄。

「お前、何年生だ?」
「……」
「答えろ。
 職務質問だぞ」
「…今年の春で、3年」
「受験生に突入か…」
「……」

少年は項垂れた。

「…一寸付き合え」

山県はそう言うと
少年を連れて近くの公園に向かった。

* * * * * *

「ほらよ」

山県が寄越したのは
缶のココアだった。

「飲めよ。
 腹減ってんだろ?」
「…戴きます」
「礼儀正しいじゃねぇか。
 感心、感心」

「あの…」

山県の笑顔に疑問が芽生えたのか。
少年は恐る恐る声をかけた。

「僕…その……」
「今までの犯行は、お前か?」
「…うん。
 その……」
「?」

「逮捕、されるの?」
「ボヤ騒ぎで治まったとは言え、
 放火は凶悪な犯罪だ」
「……」

「でもな、『少年法』ってのが有って
 逮捕は出来ねぇんだよな」
「……」

「逮捕されないからと言って
 罪が許されると思うな。
 神様は全てお見通しだ」

「…辛かったんだ」

少年はそっと呟いた。

「親が僕に過剰な期待をしてて…
 それに答えなくちゃと思って…
 ずっと…辛かったんだ。
 だから…だから……」

「…悔い改めよ。
 出来るか?」
「…うん」

山県はそれ以上何も言わず、
笑顔を浮かべて缶珈琲を飲んでいた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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