Act・2-7

NSM series Side・S

ふと『ソレ』を徐に取り出した。

此処はCORNER LOUNGE。
懐かしいあの場所で
小鳥遊は静かに酒を味わっていた。

此処暫く大きな事件は無い。
カウンターに、
使い古された黒い皮の手袋を置く。

「…お誕生日、おめでとう御座います。
 乾杯……」

その皮手袋に向け、
グラスを傾ける。
すると。

カランカラン

「…課長」
「よぅ、班長。
 もうやってたのかい?」
「一足先に…」
「そうか…」

木暮はブランデーの水割りを頼み、
懐をゴソゴソと漁った。

小鳥遊の持つ物と同じ手袋。
但し、木暮のは左手用。
小鳥遊は右手用だ。

「…今日は大さんの誕生日か」
「えぇ…」
「早いものだ…」

木暮は出された水割りを受け取り、
手袋に乾杯する。

「大さん…。
 班長も皆も、
 本当に良くやってくれてる。
 安心して良いぞ」
「課長…」

「班長は大さんの『右腕』だ。
 間違いない。
 この俺が太鼓判押したんだからな」

大門の苦笑が目に浮かぶ。

「課長…」
「ん?」

「確か、そう言って下さいましたね。
 『自分は先輩の右腕となる存在だ』と
 この手袋を…」

そう。
それは大門の遺品。
あの『瞬間』まで彼が愛用していた物だ。

「そして課長は『左手』の手袋を…」
「大さんは俺の『生命』だからね」
「生命…」

「丁度良かったんだよ。
 俺達にとっても、
 大さんにとっても…」

木暮は美味そうにブランデーで喉を湿らせた。

* * * * * *

「あれ?」

平尾が不意に声を上げた。

「班長は?」
「知らねぇ」
「班長なら外出ですよ」

山県の代わりに立花が返事をする。

「課長も居ないよね」
「そうなの?」

「そうなのよ、大将。
 困ったなぁ。
 この書類、目を通してもらわないと…」
「じゃあ班長の判子押しちゃえば…」
「駄目ですよ、大将さん。
 それに班長の机、  鍵が掛かってます」
「誰かさんが前科犯したからね」
「ハトッ!!」

23区西部特別機動捜査隊 小鳥遊班。
悪党も一目置く
『元』大門軍団。

彼等は普段、とても明るい。
いつもこんな調子で
刑事部屋で騒いでいるのが好きなのだ。

「ジョーは?」
「そう云えば…先輩は」

平尾と立花が同時に問うが
山県も彼の行き先は知らないらしい。

「非番…じゃなかったっけ?」
「あ…そうだった」

鳩村の言葉に三人共が納得する。

「久々の非番だって言ってたな。
 アイツが宿直の時に限って
 此処のところ犯罪が起こってたし…」
「日頃の行いの差よ」

山県はそう言って笑っている。

明るい日差しが
刑事部屋に差し込んでいた。

大門はきっと
喜んでいるに違いない…。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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