Act・2-9

NSM series Side・S

「俺はモンタージュよりもコッチの方が良いなぁ」
「…そうだね」
「ん? お前も?」

「あぁ。モンタージュもカラーじゃ駄目なんだよ。
 せめてモノクロ。
 それでも似顔絵には敵わないと思う」
「…どうしてなんだろうな」

「記憶に直接刺激を与えるからじゃない?」
「成程ね…」
「俺もさ。写真を見てるだけじゃピンと来なくて。
 でも似顔絵だと割と早く思い出せる」

北条はそう言うと、山県が食べている焼飯を
ヒョイとスプーンで掬い上げた。
そのまま自分の口に運ぶ。

「ラーメンじゃ足りないんだろう」
「まぁ…ね」
「お前も焼飯にすれば良かったじゃないか」
「ラーメンが食いたかったんだよ」
「…この餃子も食うか?」
「……うん」

相当腹が減っているのだろう。
口とは裏腹に、嬉しそうに餃子に齧り付く姿を見ていると
山県はそれ以上何も言えなかった様だ。

* * * * * *

「モンタージュが進んで、
 最近は似顔絵描きの姿も減ったよ」

平尾はそう言いながら、調書を書き上げていた。

「そうなんだな」
「僕も似顔絵の方が好きだな」
「お前も?」
「うん。まぁ…これは好みだよね」

「…似てるよな」
「何が?」
「お前とジョーってさ、
 何か好みとか嗜好が似てない?」
「それを言うなら大将も
 ハトさんとよく似てるけどね」
「そうなの?」
「うん。これはジョーもよく言ってる」
「へぇ……」

山県は盛んに感心しながらお茶を飲んでいた。

「温かみを感じるって…」

平尾のふと口にした言葉が妙に心に響く。

「それ、誰が?」
「…あぁ、独り言」

平尾は言葉を濁した。

彼らしくないその仕草に、山県は盛んに首を傾げた。
だが、どんなにその後問い詰めた所で
平尾からは何も回答をもらえなかったのだが。

* * * * * *

俺が知らない事…まだまだ沢山有るな。
まぁ、俺だけじゃないんだろうけど
そう云う事に気付かされると
何だか…堪らなくなる。

あの頃と変わっていないと思っていたのは
俺だけだったんだろうか。

変わってしまった。
何もかもが、大きく変わってしまったと思う。

しかし、変わらなかった部分もある。
俺は多分その部分に縋っているのかも知れない。

あの頃を懐かしく振り返ってしまうのは
俺も年を取ったって事かな?

俺が物憂げに煙草を吸っていると
ふと傍に誰かの気配を感じた。

「何してんの?」
「…別に」
「俺も煙草吸うかな…」

俺の気持ちに何処まで気付いてるのやら。
ジョーの奴、不思議そうな顔を浮かべながら
コッチを見てやがった。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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