Act・2-10

NSM series Side・S

「理想的な退職、ねぇ…」

珍しく新聞片手に
山県がふと呟いた。

「?」
「俺の場合は…
 やっぱり神父になるんだろうなぁ…」
「でしょ?
 親父さん、カリカリしてるし」
「五月蝿いんだよっ!!」

「あ~ぁ。
 また大将さんとジョー先輩が喧嘩だ…」

立花はそう言うと視線を
鳩村と平尾に移した。

「退職後の事って…考えてます?」
「いや」
「僕も。出来る所までこのまま」
「ですよね」

「確かに仕事はキツいんだけどさ。
 これ以上遣り甲斐の有る仕事が有るかと言えば
 …無いんじゃない?」
「一兵に同感だ。
 俺は『鳩村軍団』を結成するのが
 夢だからな~」

鳩村はそう言うと
恍惚の笑みを浮かべる。

大門の面影を思い描いているのだろう。

何も言わずとも、
平尾も立花も鳩村の気持ちは理解出来た。

「まぁ…柄じゃねぇな」
「確かにね」
「自分達には似合いませんよね」

3人はそう言って笑っていた。

* * * * * *

「おやっさん、元気なのか?」

山県はケロッとした顔で
北条に問う。

「…えぇ。
 元気にしてましたよ」
「してましたって…
 会ったのか?」
「はい。出先でね」

山県には言葉を濁したが
1週間前、北条は大門の墓前で
南と出会っていたのだ。

* * * * * *

『あの事件』以来、現場を退いた南。
大門の遺志を若者達に託し、
彼は刑事人生の幕を引いた。

それはそれで潔いケジメだったと
北条は感銘を受けている。

南と個人的な付き合いを続けているのは
今は北条だけだろうか。

一般人に戻った南ではあったが
世話好きな性格まで変わる訳ではない。

「…相変わらず、嫁さん貰う気は無いか」
「えぇ…」

「お前さんの事だ。
 アコちゃんの様に最愛の家族を失った人間を
 もう見たくないんだろう?」
「……」

「お前の嫁さんになる人は
 そんな『状況』も覚悟しなければならない。
 お前にはそれが耐えられないんだろう」
「…でしょうか」
「多分な。
 だが、それは大さんの気持ちに反してないか?」
「…えっ?」

「直ぐに『結婚しろ』と言ってる訳じゃない。
 ただ、女性とお付き合いしてみるのも
 良い経験になるかも知れないぞ」
「……」

「お前がアコちゃんを想う気持ちは知ってる。
 だからこそ、だ」
「…もう少し、時間を下さい」

恋愛に臆病になってしまった彼の心の氷を
どうやれば溶かしてやれるのか。
それが、南の『自分がしてやれる』事だった。

「幸せになってもらいたいんだよ。
 …ワシはな」
「おやっさん……」

南は優しい笑みを浮かべ、
北条の肩をそっと叩いた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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