Act・3-3

NSM series Side・S

「待て、この野郎ッ!!」

山県は猛ダッシュで
自転車に乗った引ったくり犯を追い掛けている。

非番時。
偶然出会わせた事件だけに
署へ応援を出す暇も無かった。

引ったくり犯は
最近頻繁に出没していた。
もしかすると今回の奴は
『真犯人(ホンボシ)』かも知れない。

と、なると
此処で逃げられる訳にはいかないのだ。

「あっちが自転車で
 コッチが走りってのは
 ハンデ有り過ぎだぜ……」

ボヤキながらも山県は
一発逆転の策を練っていた。

* * * * * *

「へん、ざまー見ろ!」

引ったくり犯は
後ろを追い掛けていた
山県の姿が見えなくなった事を確認して
漸く一息を吐いた。

自慢のマウンテンバイクを相棒に
これまで20件以上の犯行に成功していた。

パトカーでは追跡出来ない小道に逃げ込めば
もうこっちのものである。

「今日の獲物は…
 おぉ、結構入ってるな」

犯人はターゲットを老婦人に絞っている。

ローリスク・ハイリターン。

これがこの犯人のやり方だ。

老婦人の大切にしているハンドバックを
犯人は無造作に開けて
中身を覗き込んでいた。

* * * * * *

「…結構入ってるな。
 早く全部 返してやらねぇと
 婆さんが困ってるぞ」
「?!」

背後の声に気付き
犯人は慌てて身構えたが、
鋭いストレートがワンツーで
腹部にヒットする。

「グファッ!!」
「諦めな。
 お前の逃亡劇も此処まで。
 俺を撒けると思うなよ」

山県だった。
走ってきた筈にしては
息が少しも切れていない。

「何故…?」
「お前、莫迦だろう?
 所轄の地図が頭に入ってなくて
 刑事が勤まるか!」
「!!」

「お前の逃走経路から
 此処を割り出して
 待ち伏せしてたって訳さ」

刑事だけではない。
裏道、目的地に早く行き着くコース等は
所轄であれば脳裏に刻まれている。

「ひ…卑怯者っ!!」
「テメェの手口の方が
 余程卑怯じゃねぇかっ!!」

山県は更に
フック、アッパーをお見舞いするが
5発も入れると
犯人が先に気絶してしまった。

「…ヤワな野郎」
「ヤリ過ぎ」

涼しい顔で鳩村が見つめる。

「鳩村君の御蔭で
 無事に解決だよ」
「KATANA-Rに言ってくれ。
 …それにしてもお前」

先程の山県の台詞に
鳩村は今まで我慢していた笑いを全開にした。

「何が
 『所轄の地図が頭に入ってなくて
  刑事が勤まるか!』
 だよ。
 抜け道、全然頭に入ってねぇし」
「ま、まぁ…
 俺はホラ、車だから…」

山県は焦りながら
ハンドバックを拾い上げた。

「俺、コイツを返してくるわ。
 そいつの後始末は任せたぜ」

鳩村は溜息交じりの苦笑を浮かべる。

「…お前、そのまま消えるなよ」
「んな事、誰がするんじゃっ?!」

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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