Act・3-4

NSM series Side・S

「又抜け出しただろう、お前。
 医者が探してたぞ」

漸く見つけたと表情を曇らせ
鳩村が肩を叩いた。

「子供じゃないんだからさ。
 隠れん坊や鬼ごっこは止めようぜ?」
「探さなくても良いのに」

「体温が39℃ある奴を探さずに放っておく医者が居るか?」
「ハトさん、医者じゃないだろうが」
「医者じゃ無きゃ心配しちゃいけねぇのかよ」

「寝て起きたら治る」
「もう5日もその状態だろう…」
「1週間経てば治るさ」

「お前は……」

流石に鳩村もムッと来たのか、
強引に北条の腕を捕らえて医務室へと向かう。

「まだ煙草吸ってない…」
「吸わなくても良い!」
「ストレス溜まるだろう?」

「お前は病人だ!
 少しは病人らしくしておけ!!」

久々に怒鳴られた。
だが、当の本人は至って平然としている。

「無頓着って言葉ではもう当て嵌まらんな。
 自虐的だ」
「…どうも」

「そんなに嫌か、この世界が」
「大嫌いだね」
「即答出来るんだ。大したモンだよ…」

機嫌が悪い時ほど、否定的な言葉を即答する。
あの事件以来身に付いた彼の『悪い癖』を
一番最初に気付いたのは鳩村だった。

最初は自暴自棄かと思っていた。
途中で不貞腐れているのかと思った。
今は…哀れに思える。

「お前は天邪鬼だな。
 大嫌いな世界を守る為にお巡りさんやってるなんて」
「俺が嫌いでも、好きな人が居るからね」
「……」

「訂正する」
「ん…?」

「居た、だった」
「…嫌味か」

返事は無い。
後味の悪さが心を支配する。

大門の存在を恋しく思うのは自分だって同じだ。
自分だけじゃない、仲間達もだ。

だが、彼はそれを頑なに認めない。

「お前がどうなろうが知った事じゃねぇ。
 だがな、人材不足は捜査に響くんだ。
 最低限、動ける状態にはなってもらうからな」

北条は皮肉な笑みを浮かべている。
それにも慣れてきたこの頃。

もう、昔の様に優しくは出来ないのだろうか。
そんな自責の念が、今日も鳩村を苦しめていた。

* * * * * *

「ハト、お前も大変だな」

CORNER LOUNGEで木暮とグラスを交わしたのも久々だ。
彼の疲労困憊な様子を見て、木暮が誘ったのである。

「…全くですよ。
 俺はあんなデカいガキの子守をする為に
 西部署に戻ったんじゃないんですけどね」
「これからの良い経験になる。
 もう少し子守業に専念してくれないか?」
「冗談じゃないですよ…」

鳩村は苦笑を浮かべている。

「自分一人じゃおネンネも出来ない。
 あんな奴じゃなかったんですけどね」

昔をふと懐かしむ口調に
木暮は一瞬だが表情を険しくさせた。
だが、鳩村はそれに気付いていない。

「何時まで経っても甘えてるんですよ。
 お前はもう一番下じゃねぇだろうって…」
「良い父親になるよ、お前さん」
「いや、それだけは勘弁して下さい」

「…今のジョーとは組みたくないか」
「……はい?」

「確かに、変わってしまったからな」
「まぁ、変わったのは認めざるを得ませんが。
 だからと言って組みたくない訳じゃないですよ?」

大門が健在だった頃は誰よりも仲の良かった2人。
それが、こうも簡単に離れてしまえるのだろうか。

『ジョーだけじゃない。
 ハトもまた、抜けられないんだな。
 大さんを失った事実から…』

お互いの傷に気が付けば、これほど強固な関係は無い。
だが、近過ぎる故に憎み合っている。
互いが、互いを。
面白くない存在だと感じてしまっている。

『当人達が気付かないままではどうしようもないな、大さん…』

木暮は、大門が困惑気味の笑みを浮かべて
此方を見つめている様な気がしていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
Home Index ←Back Next→