Act・3-6

NSM series Side・S

「もうこんな時間だな」

署を後にする途中、ふと空を見上げる。
その横顔がとても静かで、消え入りそうなほど儚く見えた。

「おい…」
「ん?」

「何だか寂しそうに星空を見るんだな」
「…何がだ?」

山県の問い掛けに意味が解らないと首を傾げ
北条は煙草を口に咥える。

「お前ってさ、そんな目をしてたか?」
「だから何が?」
「…ん、とだなぁ……」

「大将、変わったよな」
「え…っ?」

「以前からそんな奴だったっけ?
 凄く俺に気を使ってくれてるよな」

煙草を咥えたまま、不思議そうに此方を見つめる大きな瞳。
変わったのは自分ではなく寧ろ彼だろう。

その瞳は感情を表現する事無く、
静かに自分を映し出している。
今日の、星空と同じ様な色で。

全身で感情を表す春風の様な姿が、今はとても遠くに感じる。
懐かしさよりも、ただ…戻ってきて欲しいその姿こそが
自分の感じる彼の本当の姿だと信じている。

例え、今の彼がその事実を否定しても。

「ジョー」
「…何だよ」

「煙草、くれ」
「…自分の、持ってねぇの?」
「丁度切れた」
「……勘弁してくれよ。
 何で毎回毎回、後輩にたかるんだ…」

口では渋りながらも、その手は既に用意している。
箱をカサっと振り、一本を取り出してみせる。

「火は? 貸そうか?」
「頼むわ」
「…本当、世話が焼けるね」

ライターで火を渡そうとしたが、風が邪魔で点けられない。
止むを得ず、自身の煙草を利用して
何とか山県の煙草へと火を点けた。

* * * * * *

「綺麗な空だな。
 雲一つ無くて、星がこんなに良く見える。
 都会の空は汚れてるって言う奴が居るが
 俺は寧ろ、こんな綺麗な星空が拝める事に
 感謝すらしてるよ」
「…よく喋るね、今日は」

山県がこんなに話をするのも珍しいと云えば珍しい。
然もよく聞けば、
かなりの回数で出てくる単語がある。

『感謝』だ。

彼の口からこの単語を聞く度に
聖職者である事を実感してくるのである。
以前よりもその傾向は強くなった。

「なぁ、大将…」
「ん? どうした?」

「いつか、アンタも……」
北条は何かを言ったみたいだったが
その声が小さ過ぎて聞き取れない。

「何だ? 今、何て言った?」
「…何でもない。忘れてくれ」
「気になるじゃねぇか。言えよ」
「……忘れたよ」

北条は何度聞き直しても言おうとはしなかった。
その態度から、感じ取った事。

「まだ、居るよ」
「……」

「あの夜空の星の様に、お前等を置いたまま
 西部署を離れたりはしないさ」
「……」

「お前、それが心配だった?」
「…別に」

「素直じゃないね、お前さん。
 寂しかったんだってちゃんと言ってみろよ」
「…ふざけんな。ぶん殴るぞ」
「顔真っ赤にして、可愛いねぇ~!」
「大将っ!!」

図星を突かれた事が余程恥ずかしかったのか
北条は本気で山県に殴りかかっている。
果たして山県がその拳のラッシュを交わし切れたかどうかは
定かではない。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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