Act・3-7

NSM series Side・S

「いたたたた…」

顔を顰めてはいるものの
平尾は何故か上機嫌だった。

その意味が解らず
立花は北条と顔を見合わせている。

「どうしたんですかね?
 一兵さんって…マゾっ気有りました?」
「それをコイツに聞くなよ、コウ」

山県はそう言うと
ニヤニヤ笑って立花の髪を撫でる。
乱暴なのはご愛嬌だ。

「それ、アメリカの彼女から?」
「そう。
 プレセントって…」
「へぇ……」

鳩村は感心しながら
靴を見つめる。

「上品な拵えだが…
 若干お前の足より小さい?」
「…『若干』ね。
 ほら、こう云うのはやっぱり
 『使ってなんぼ』だし」
「ふ~ん」

鳩村も何となくだが
平尾の気持ちを理解しているらしい。

「履くな」とは云わない辺りが
その表れだ。

「彼女からのプレゼントか…」
「相当な美人だぜ、コウ。
 写真見てみるか?」
「有るんですか?」

「…有る…筈だったんだが」
「もう回収済みだよ、大将。
 残念でした」

平尾は笑顔でアカンベエを出し、
それにつられて全員が吹き出した。

* * * * * *

「ん…有難うね。
 毎日履いてるよ」
『でも…あれね。
 平尾さんのサイズと少し違うのよ。
 お店の人が間違えちゃったの。
 だから……』
「そんなに気にしなくても大丈夫だって」
『そんな訳にはいかないわ!』
「由美子さん…」

『貴方の為にって送った物が
 貴方の為にならないなんて…
 それじゃ私、
 何をしてるのか解らなくなっちゃうもの…』
「由美子さん…」

離れていても、
彼女の気持ちが伝わってくる。
満たされた思いが込み上げてくる。

大門軍団に居なければ
きっと、巡り逢えなかった存在。

『だから。
 直ぐにちゃんとした靴を送るから。
 良い?
 今のは履かないで下さいね!』
「…解りました」

苦笑交じりの平尾の声は
果たして彼女にどう届いただろうか。

* * * * * *

「で…
 靴はサイズが合ったの履いてるんだけど…」
「服装が……」

ドレッシーな靴に合わせると
どうしても衣装もそれに合わせないといけない。
平尾の優しさが
思わぬ事態を引き起こしていた。

「…チンドン屋?」
「ジョー…言うな。
 言ってやるな……」
「一兵さん……」
「その格好で捜査に出るな。
 …目立つから」

「皆…寄って集って
 それは無いでしょ、それはッ!!」

平尾の賑やかな声に対し、
他の4人はまるで子供の様に
彼を囃し立てる。

「無邪気なもんだ…」

小鳥遊は紙縒りを耳に挟むと
捜査資料に目を落とした。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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