顔を顰めてはいるものの
平尾は何故か上機嫌だった。
その意味が解らず
立花は北条と顔を見合わせている。
「どうしたんですかね?
一兵さんって…マゾっ気有りました?」
「それをコイツに聞くなよ、コウ」
山県はそう言うと
ニヤニヤ笑って立花の髪を撫でる。
乱暴なのはご愛嬌だ。
「それ、アメリカの彼女から?」
「そう。
プレセントって…」
「へぇ……」
鳩村は感心しながら
靴を見つめる。
「上品な拵えだが…
若干お前の足より小さい?」
「…『若干』ね。
ほら、こう云うのはやっぱり
『使ってなんぼ』だし」
「ふ~ん」
鳩村も何となくだが
平尾の気持ちを理解しているらしい。
「履くな」とは云わない辺りが
その表れだ。
「彼女からのプレゼントか…」
「相当な美人だぜ、コウ。
写真見てみるか?」
「有るんですか?」
「…有る…筈だったんだが」
「もう回収済みだよ、大将。
残念でした」
平尾は笑顔でアカンベエを出し、
それにつられて全員が吹き出した。
「ん…有難うね。
毎日履いてるよ」
『でも…あれね。
平尾さんのサイズと少し違うのよ。
お店の人が間違えちゃったの。
だから……』
「そんなに気にしなくても大丈夫だって」
『そんな訳にはいかないわ!』
「由美子さん…」
『貴方の為にって送った物が
貴方の為にならないなんて…
それじゃ私、
何をしてるのか解らなくなっちゃうもの…』
「由美子さん…」
離れていても、
彼女の気持ちが伝わってくる。
満たされた思いが込み上げてくる。
大門軍団に居なければ
きっと、巡り逢えなかった存在。
『だから。
直ぐにちゃんとした靴を送るから。
良い?
今のは履かないで下さいね!』
「…解りました」
苦笑交じりの平尾の声は
果たして彼女にどう届いただろうか。
「で…
靴はサイズが合ったの履いてるんだけど…」
「服装が……」
ドレッシーな靴に合わせると
どうしても衣装もそれに合わせないといけない。
平尾の優しさが
思わぬ事態を引き起こしていた。
「…チンドン屋?」
「ジョー…言うな。
言ってやるな……」
「一兵さん……」
「その格好で捜査に出るな。
…目立つから」
「皆…寄って集って
それは無いでしょ、それはッ!!」
平尾の賑やかな声に対し、
他の4人はまるで子供の様に
彼を囃し立てる。
「無邪気なもんだ…」
小鳥遊は紙縒りを耳に挟むと
捜査資料に目を落とした。
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