Act・3-8

NSM series Side・S

いきなり吹っ飛ばされた。

驚いた。

先輩、何も言わず
凄く怖い目で俺を見ている。

「……」

握り締めた拳が
小刻みに震えていた。

* * * * * *

俺はハトさんが怪我をすると
どうしても冷静で居られなくなる。

解ってはいるんだけど
派手に取り乱して
必ずと言っていい程
先輩の手を煩わせる。

いつもなら、優しく励ましてくれる先輩。

でも…今日は違った。
何故……?

「ジョーの逆鱗に触れたな」

大将さんが静かに口を開く。

「逆鱗…?」
「お前、さっき自分が言った台詞
 もう一度言ってみろ」

「…『ハトさんの代わりに、自分が…』」

撃タレレバ良カッタ。

その直度、強烈な拳を食らった。
先輩は…泣いてるみたいだった。
目元で微かに光る…
あれは、涙?

「あの台詞はな…
 団長が殉職した時、
 ジョーが吐いた言葉だ」
「…先輩が?」

「お前の様に、
 …いや、もっと荒廃してたな。
 無表情で平然と言いやがった。

『俺が撃たれれば良かった。
 俺が死ねば良かったんだ』と…」
「……」

「その時、今の様に
 ジョーをぶん殴ったのが、ハトだ」
「…えっ?」

「まさかジョーが
 あの時のハトと全く同じ台詞を
 吐く様になったとはな……」

『自惚れるなッ!!』

確かに、そう聞こえた。
あれは…。
不思議と、ハトさんの声と重なって聞こえたのは…
幻聴ではなくて……。

「ジョーは案外、
 お前じゃなくて過去の自分に
 腹を立ててたのかもな」

頭が冷静になってくると同時に
俺は…とんでもない事を口走ったと
激しい後悔の念に駆られた。

* * * * * *

「…全くコレ位で大騒ぎしやがって」

鳩村は体を起こし、
苦笑いを浮かべている。

「無茶するなよ、おっさん」
「何を言うか、1歳年上」

鳩村は山県を手招きする。

「で、コウは?」
「ジョーの後を追って行ったよ。
 犯人でも捜しに行くんじゃねぇの?」

「ふ~ん。
 見舞って欲しかったんだけどね」
「はっ倒してやろうか?」

「……」
「ハト?」

「…ヤな思い出、
 甦らせたみたいだな……」
「…ジョー、か?」
「あぁ……」
「……」

「アイツは…」

鳩村はそう呟くと
そっと両目を閉じた。

「まだ…気持ちが変わった訳じゃない。
 巧妙に『隠している』だけだ」
「…ハト?」

「俺は…解ってる。
 アイツはあの時の気持ちのまま。
 まだ、脱却出来ていない。
 する気も、持ってない」
「…そうだったのか」

「いつになれば
 心を開いてくれるんだろうか」
「…さぁ、な」

二人は言葉を失い、
そのまま黙り込んでしまった。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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