Act・3-9

NSM series Side・S

胸に輝くペンダントが重く感じる。
そんな時は決まって
自分が『迷っている』時だ。

今迄はそっとこのロケットを開け
自分を励まして来れた。

だが。
何時からか、それを封じた。

此処に眠るのは
『あの人』との大切な思い出。
もう、帰ってこない
大切な時間。

しかしペンダントを手放す事も出来ず
こうしてロケットを封じただけに留まった。

「俺にとっての…
 パンドラの匣(はこ)」

そっとペンダントトップを握り締め
北条はそのまま目を閉じた。

「…何で、殴っちゃったのかな」

* * * * * *

「コウ…」

暫くすると静かに病室の扉が開いた。
立花である。

「どうした?」
「あの…先輩、
 見当たらなくて……」

鳩村はそっと微笑むと
立花を手招きする。

「ハトさん…?」
「今は…俺の心配してくれないのか?」
「…ハトさん」

「じゃあハトの世話は
 コウに任せるわ」

山県はそう言うと
さっさと部屋を後にした。

「…気を利かせてくれたんだな」
「大将さん……」

「話は、聞いた。
 駄目だぞ、コウ。
 お前の代わりは…何処にも居ない。
 忘れるんじゃないぞ」
「…はい」

「よし……」

鳩村は満面の笑みを浮かべている。

その笑顔を
自分の手で守りたい。

「済みませんでした」

立花の謝罪に対し、
鳩村は小さく
「もう、良い」と
呟いた。

* * * * * *

何処へ行けば良いか判らず
足の気分に任せていたら
やはり『此処』に辿り着いた。

ポケットの鍵を取り出し、
ボックス席を開ける。

そのまま体を丸め、
中に入ると不思議に落ち着いてきた。

「サファリ……」

扉を閉め、外界と遮断する。

静かに目を閉じると
鮮明に思い出される。
懐かしい、あの頃に。

「…帰りたい」

そっと、呟いてしまう。

「帰りたいよ……」

暖かい、水の気配を感じる。
止め処無く溢れ出る、それは『涙』。

「俺…いつまでも
 このままを『演じて』なんていられない…。
 良い人なんて…なれない……」

何処かで本音を出さなければ
きっと潰されてしまうだろう。
それは余りにも重い足枷。

「…疲れた」

彼はそう言うとそのまま
サファリの中で寝息を立てていた。

* * * * * *

「このワンパターンが」

サファリの外には
何時からか山県が居た。

しかし北条を起こす素振りは無く
その寝顔を確認すると
そっと扉を閉めてやる。

「何時までも逃げ込んでるんじゃねぇよ。
 サファリだって困ってるだろうが、なぁ?」

山県はそう言って笑みを浮かべ
そのまま朝を待った。

「お前はもう、
 『一人じゃない』んだからな…」

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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