そんな時は決まって
自分が『迷っている』時だ。
今迄はそっとこのロケットを開け
自分を励まして来れた。
だが。
何時からか、それを封じた。
此処に眠るのは
『あの人』との大切な思い出。
もう、帰ってこない
大切な時間。
しかしペンダントを手放す事も出来ず
こうしてロケットを封じただけに留まった。
「俺にとっての…
パンドラの匣(はこ)」
そっとペンダントトップを握り締め
北条はそのまま目を閉じた。
「…何で、殴っちゃったのかな」
「コウ…」
暫くすると静かに病室の扉が開いた。
立花である。
「どうした?」
「あの…先輩、
見当たらなくて……」
鳩村はそっと微笑むと
立花を手招きする。
「ハトさん…?」
「今は…俺の心配してくれないのか?」
「…ハトさん」
「じゃあハトの世話は
コウに任せるわ」
山県はそう言うと
さっさと部屋を後にした。
「…気を利かせてくれたんだな」
「大将さん……」
「話は、聞いた。
駄目だぞ、コウ。
お前の代わりは…何処にも居ない。
忘れるんじゃないぞ」
「…はい」
「よし……」
鳩村は満面の笑みを浮かべている。
その笑顔を
自分の手で守りたい。
「済みませんでした」
立花の謝罪に対し、
鳩村は小さく
「もう、良い」と
呟いた。
何処へ行けば良いか判らず
足の気分に任せていたら
やはり『此処』に辿り着いた。
ポケットの鍵を取り出し、
ボックス席を開ける。
そのまま体を丸め、
中に入ると不思議に落ち着いてきた。
「サファリ……」
扉を閉め、外界と遮断する。
静かに目を閉じると
鮮明に思い出される。
懐かしい、あの頃に。
「…帰りたい」
そっと、呟いてしまう。
「帰りたいよ……」
暖かい、水の気配を感じる。
止め処無く溢れ出る、それは『涙』。
「俺…いつまでも
このままを『演じて』なんていられない…。
良い人なんて…なれない……」
何処かで本音を出さなければ
きっと潰されてしまうだろう。
それは余りにも重い足枷。
「…疲れた」
彼はそう言うとそのまま
サファリの中で寝息を立てていた。
「このワンパターンが」
サファリの外には
何時からか山県が居た。
しかし北条を起こす素振りは無く
その寝顔を確認すると
そっと扉を閉めてやる。
「何時までも逃げ込んでるんじゃねぇよ。
サファリだって困ってるだろうが、なぁ?」
山県はそう言って笑みを浮かべ
そのまま朝を待った。
「お前はもう、
『一人じゃない』んだからな…」
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