Act・3-10

NSM series Side・S

「課長はどうして本庁へ行かなかったんですか?」

前々から思ってた疑問。

立花は或る日、
意を決してそう訊ねてみた。

鳩村から概要は聞かされているが
是非本人の口から聞きたかった。
木暮が『西部署』に拘る理由を。

「そうだな。
 じゃあ一寸一緒に行くか」
「えっ?
 何処へですか?」
「良い所だよ」

木暮はまるで少年の様な笑みを浮かべ
立花をガゼールへと案内した。

* * * * * *

「よ、大さん。
 元気にしてるか?」

其処は前に一度訪れた事がある
『大門 圭介』の眠る場所。

木暮はさも当然の様に花を手向け
墓周りを掃除し、線香を焚く。
その優しげな動作は
以前自分を此処に案内した男と
重なって見えた。

「本庁、だったな」
「はい」
「つまらなくてね。
 俺にとって、何の魅力も無い」
「…それだけですか?」
「まぁ、それだけじゃないな」

木暮の笑顔は変わらない。

「俺が西部署に惹かれたのは
 『大門軍団』の存在だ」
「…大門軍団」

「当時から軒並み外れた連中が揃っててな。
 こりゃ退屈しないと思ったもんさ。
 まぁ、当然ながら最初は歓迎されなかったがね」
「そうなんですか?」
「あぁ。
 エリート鼻持ちならん!って輩が
 ゴロゴロしてたからな」

木暮の表情が一瞬曇る。

「勢いが有って、一本気で、生真面目で。
 良い奴ばかりだったよ」

木暮の脳裏に過ぎった姿。
若くして去っていった刑事達。

「そんなに有名だったんですね」
「勿論。
 本庁のお偉方は
 随分と目を掛けていたもんだ」
「それ…嫌味ですか?」
「よく解ったな」

木暮の表情がまた明るくなる。

「腹を割って話せば
 皆、解る奴ばかりでな。
 本庁よりも遥かに居心地が良かった。
 階級なんかに振り回されない
 人間の『真の強さ』が其処に存在していたからな」

「その『軍団』を束ねていたのが…」
「そう、大門団長だ。
 後にも先にも、
 あんな男は現れないだろう」

「…正直、皆が羨ましいです」

立花はふと呟いた。

「自分も、大門団長の下で働きたかった」
「今はそうじゃないのか?」
「えっ?」

「確かに大門 圭介はこの世を去ったかも知れない。
 だが、彼の残した功績は大きい。
 大さんの遺産は、西部署に残っている。
 今でもな」
「…?」

「『小鳥遊班』だよ。
 大門軍団の『心』を受け継いでいる
 唯一無二の存在だ」

木暮はふと空を見上げる。

「そしてそれこそが。
 大さんの『夢』だった」
「…課長」

「大さんの心までは死なない。
 皆の中で、大さんは今も生きている。
 勿論、お前の中にもだ…コウ」
「自分の…中にも?」

「そうだ。
 そして『大門 圭介』の心を受け継いだ者が
 『大門軍団』の一員なんだ。
 それを…忘れるな」

木暮の励まし。
何よりもそれが有り難かった。

「絶対に忘れません!」
「よし、それで良い」
「はい」

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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