Act・4-4

NSM series Side・S

「またお前かよ」

夜のホテル街。
通報を受けた北条は
馴染みの顔を見つけて悪態を吐いた。

「それはこっちの台詞。
 スクープの邪魔しないでくれる?」
「お前ね。
 何事にも『限度』ってのが有るんだぜ。
 お前のは限度を超えてる訳」

腰に手を当てたまま
北条は険しい顔で男を見つめる。

「この前は不法侵入。
 いい加減にしろよな」
「じゃあ来なけりゃ良いじゃんか」
「莫迦か?
 通報が有れば、警察は飛んでくるもんなの!」

もう何度この男に振り回されているか判らない。

ゴシップ記事専門のカメラマン。
芸能人の密会現場を押さえるのが
目的とばかりに出没するが、
その度にあちこちに火種を残していくのだ。

今はまだ大きな事件に発展してはいないが
それは偶々運が良かっただけかも知れず、
こんな事を続けていたら誰かの反感を買いかねない。

北条はその度に説得を続けるが
哀しいかな、聞き入れられる事は無い。

「それよりさ、北条さん」
「…何だよ?」

「西部署の刑事さんってさ。
 芸能人にモテないの?」
「…一介の刑事がモテる訳ねぇだろ?」

スキャンダルを待ち構えてるのが見え見えだ。
身近に芸能人がいると云う事も有ってか
北条は自然と言葉を撥ね付けた。

「ほら、さっさとお家に帰んな」
「あ、仕事の邪魔するなよ!」
「何が仕事だ。デバガメの癖に。
 ほら、とっとと帰れよ…亨!」

北条はフッと笑みを浮かべると、
亨の尻を軽く蹴り上げた。

* * * * * *

「放っておけよ、チンピラカメラマンなんてさ」
「そうは言ってもね、大将…」

馴染みの屋台でおでんを突きながら
北条は愚痴を溢していた。

基本的にストレスを溜める方では無いと思っていたが
『あの事件』の後の北条は
人が変わった様に本音を話さなくなってしまっている。

こうして愚痴を吐き出してくれるだけでも有り難いと
山県はマメに付き合う様にしていた。

「放っておけないんすよ。
 何をしでかすか心配で」
「一度痛い目でも見りゃ良いんだよ」
「そうかなぁ…?」

「そうよ。
 人間ってのはさ、
 自分で痛い思いをしないと学ばない生き物なの」
「痛い…思い、ね」

北条は何かを思い出したのか、
フッと表情を曇らせて酒を煽った。

「どうした?」
「…何でも無い」
「……そうか」

山県は心の中で『しまった』と悔やんだ。
何かの切っ掛けで北条の心が又『閉じた』らしい。

「まぁ、さ」

それを振り切るかの様に言葉を続ける。

「お前が思う様にやってみろよ」
「…大将?」

「お前が信じる通りに、やってみろって」
「……あぁ」

北条の瞳が微かに柔らかさを帯びている。
それを確認し、山県は静かに頷いた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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