Act・4-5

NSM series Side・S

嬉しそうに新品の携帯を持ちながら
平尾が一人小躍りしていた。

「何をそんなに喜んでいるんだか」
「だってさぁ~」
「アメリカの彼女から?」

平尾は大喜びで盛んに頷いている。

「…海外からって、使えるの?」

携帯に全く興味の無い男の質問に
辺り全体が静まり返る。

「…あの、ジョー君。
 君、それを知ってどうするの?」
「いや、別に。聞きたかっただけ」
「自分で持つつもりは?」
「無い」

「…俺が買ってやるから、持てよ」
「利用料金払うの俺でしょ?
 嫌だよ、面倒だし」

「それ以前に俺達、支給されてるの持ってるじゃないか」

鳩村が呆れ顔で口を挟む。

「ジョー、ちゃんと携帯してるんだろうな?」
「偶に先輩の机から着信音が鳴ってますよ。
 然もピーピーって奴が」
「…お前、携帯電話の意味がねぇじゃねぇか」

立花、鳩村に釘を刺されるも何処吹く風。
北条はそのまま上着を掴むと
スッと外へ逃げてしまった。

「ありゃ、また携帯電話置き去りか」
「じゃあお前、ジョーに着いておけよ」
「何か、ハト?
 俺は奴の携帯電話代わりか?」
「アイツの頭はまだ『無線』仕様なんだよ。
 誰かがフォローしてやらないと」
「へいへい。
 じゃあ其処の惚気気味を何とかしておいてくれ」
「…惚気気味じゃなくって
 完全に使い物にならないんだが」
「全く……」

頼りにならない先輩達である。
思わず立花は溜息を吐いた。

* * * * * *

それから数日後。

「こんにちわ!」
「あれ、アコちゃん?」

鳩村の声に明子は苦笑を浮かべている。

「これ。近所のお店から」
「…携帯電話」
「忘れ物だって」
「誰の?」
「後ろ、見てみて」

「……やっぱり」

相変らず持ち主に好かれていない携帯電話である。

「然も充電してないのかよ。
 電池切れ起こしてるじゃねぇか…」
「文明に乗り遅れてるわよね。
 ジョーさんって本当に古典的」
「只の『無精者』って言うんだ、アレは」

黒地に少しグレーの入ったシンプルなデザイン。
無線に近い形だろうから大丈夫だろうと
思っていたのが甘かったのか。

「仕事だと思うのなら
 携帯くらい所持出来るだろうが…」
「あ~、駄目駄目。
 アイツ、こう云う類は苦手みたいだから」
「大将?」

ヒョッコリ現れた山県の言葉に
鳩村と明子は驚いている。

「どう云う意味?」
「監視されてる様で嫌、なんだと」
「ジョーさん、そんな事言ってたの?」
「よく文句言ってるけど。
 あれ、知らなかった?」
「…多分それを知ってるのはお前だけだよ」

鳩村の言葉に、山県は意味深に笑っていた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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