Act・4-8

NSM series Side・S

「コウ君ってさ、巡査部長なんだよね」

平尾に声を掛けられ、立花は恥ずかしそうに頷く。

「ハトさんと同じか。若いのに凄いよね」
「一兵さんも試験を受ければ
 直ぐに上がれますって」
「無理無理」

空かさず山県が会話に乱入する。

「こいつ、昇進試験落ちまくってるんだぜ?
 ナンパと同じくらい低い勝率!」
「大将っ!!」

「大将さんは受けないんですか、試験?」
「…まぁ、な」

山県は少し声のトーンを落とした。

「ん? 何で?」
「いつまでも刑事で居られない気がして、な」
「…そっか。跡継がないといけないからね」
「神父になるんですか?」
「いつかはな」

山県の声に元気が無い。
平尾もそれを気に掛けている様子だ。

「大将」
「ん…?」

「『隣人は愛せている』んだから、
 今はそれで良いんじゃないの?」
「一兵さん…?」

平尾はそれ以上、何も言わない。
穏やかな笑みを浮かべているだけだ。

「愛せてるのかねぇ…?」
「違うの?」
「さぁ…?」
「僕は愛されてると思うけどな」

笑顔を浮かべる平尾の表情はとても優しげで
見ている側も心が軽くなる気がする。

「良い先輩なんだけど…」

ふと、立花が口を挟む。

「何、コウ君?」
「どうしたんだ?」
「いえ…どうして試験に受からないのかな~って」
「そりゃ…」

山県は何かを思い出したのだろう。
苦笑を浮かべている。

「大将さん?」
「大門軍団は机上作戦なんて
 範疇外だったからな」
「そうだよね」

顔を見合わせて豪快に笑う先輩達。
立花はそんな2人を静かに見つめていた。

* * * * * *

「興味が無い…訳では無いんだが
 縁が無いんだろうな」

小鳥遊の一言に立花は驚いていた。

「縁…?」
「そう。これだけ受けて落ちる一兵も大したモンだが」
「向いてない…訳じゃない筈なんですけどね」

「まぁ…あいつ等に肩書きは荷物なだけなのかも知れんな」
「荷物…。そうか、そうですね」

試験を受けても居ない人間もいる。
そんな彼等が『刑事』でいる『理由』は。

「守りたい…。それだけなんですね」
「そうだな。
 それだけなんだから、階級は不要なんだろう」

「でも…不便じゃないですかね。
 色々と面倒な事も起こってきますし」
「それは階級のある奴の出番じゃないのかな。
 あいつ等が動き易いように土壌を整えてやる。
 それが自分の役目だと思っている」
「班長……」

「ハトも、そしてお前も。
 いつかは人の上に立つ事になる。
 今の内にいろいろ学んでおけよ」

小鳥遊はそう言うと悪戯っぽく微笑んだ。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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