Act・4-9

NSM series Side・S

亨を釈放してから数日後。

彼を取り巻く不穏な影は
その色を一層濃くしていった。
北条の抱いている不安が
急激に現実味を帯びて来ている。

「一体どんなネタを掴んでいるのやら…」

鳩村は溜息を吐きながら調書に目を走らせている。

「これだからゴシップカメラマンは…」
「ハトさん。
 そんな事言っても前進しませんよ」

立花もまたコンピュータを駆使して
何かを割り出そうと必死だった。

「事件を未然に防ぐ為…とは言え、
 流石になぁ……」

「滅多にお願い事しない奴からの頼みなんだ!
 文句言わずに手 動かせ!」

山県の喝に周囲が静まり返る。

「何だ?」
「…珍しいと思って」

「何が?」
「大将がリーダーシップ取るの…」

「一兵、俺を莫迦にしてんのか?」
「だって事実、珍しいじゃないか」
「…そうか?」

「否定してる訳じゃないからね。
 寧ろ、歓迎してる」
「一兵……」

「守ってやろうよ。皆で亨を、さ」
「そうだな」

鳩村も立花も微笑で答える。
山県はそれに対し、静かに頷いた。

* * * * * *

一方、亨の自宅アパート。

北条はずっと彼の傍に待機していた。
今も愛器の状態を念入りに確認している。

「物騒だな。仕舞えよ」

亨の抗議に対し、一切耳を貸す様子は無い。

「北条さん…」
「亨。お前、危機感が足りないんだよ」

強めだが、ゆっくりとした口調。

「どんなヤマ引き当てたのかは知らないが
 相手が悪かったみたいだな。
 毎日ストーカーよろしく、お前を見張ってる」
「毎日…?」
「お前を釈放してから、ずっとだ」

コルトローマンをホルスターに収納し
北条は静かに窓際へ立つ。

「今の時点で正面に2人…。
 昼間から随分としっかりマークしてるな」
「……」

「どこかの組の幹部か、この黒幕?」

見張りの顔を確認すると、
北条は再び窓から離れる。

「墓迄ネタを持って行きたいって言うのなら
 俺は敢えて何も聞かない。
 その状態でも、俺は充分お前をガード出来る」

「…北条さん、アンタ」
「ん?」
「何で其処までして、俺を…?」
「……」

北条は一瞬だが表情を曇らせた。
今迄見せた事の無い、脆い表情。

「北条さん?」
「刑事だから、だよ」

「それだけ?」
「あぁ…」
「たった、それだけの為に?」
「…そうだ」

沈黙で空気が重い。
北条は徐に煙草を取り出し、そっと咥えた。
亨が黙ったまま、マッチで火を渡す。

「……サンキュ」

フッと微笑を浮かべるが、
その瞳の中にある悲しみの色を
亨は見逃さなかった。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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