Act・5-1

NSM series Side・S

「交番…か」

物憂げな表情で北条は派出所を見つめている。

亨のガードは、立花が交代してくれたので
今日は通常のパトロールだ。
ハンドルは山県が握り、
北条はボンヤリと外を見つめていた。

「お前、派出所勤務だったっけ?」
「いや……」

「…あのさ、ジョー」
「…何?」
「言いたくない話題なら、
 無理しなくても良いぞ…」
「…大将」
「無理、しなくても良いからな」

最近、山県はそう言う事が多くなった。
自覚もしている。
自分の知らない『空白の1年間』で
仲間達がどんな日々を過ごしてきたのか。

気にはなる。
だが、何処かで聞く事を躊躇っている。

「……形だけの捜査課勤務だったから
 毎日が暇でさ。
 パトロールと称して、派出所巡りをしてた」

北条は視線を合わせる事無く、静かに語り出した。

「そうか……」
「交番ってさ、何か…良いよな」
「……」
「いつ行っても温かく迎えてくれるし。
 刑事部屋よりも安心出来た」

「ジョー……」
「…ん?」
「1年間ずっと…そんな状態だった、のか?」
「まぁ…ね。
 ほら、俺…東部署だったろう?」
「だからって、それは……」

「意見も何も、噛み合わなかったんだよな」
「……」
「一応、努力もしてみた。
 周囲に合わせないと駄目だ、とか思ったし。
 でも…無駄だった……」

小さく溜息が漏れる。
暫しの沈黙。

「無駄、だったのか…」

山県の言葉に、小さく頷く。
そして又沈黙。

「…お前が『西部署』出身、だったからか?」
「いや……」
「じゃあ何故……」

「…奴等が面白くなかったのは
 俺が『大門軍団』の一員だった事だ」
「そっち、か……」
今度は山県が大きく溜息を吐いた。

「俺は大門軍団での捜査方法しか知らないし、
 それが一番良いと信じて動いてきた。
 今でも……それは、変わらない」
「ジョー、お前は……」

「俺でとってあの1年は……」

北条は声を詰まらせていた。

「辛いだけの、最悪の日々だった……」

そう何とか呟くと、静かに瞳を閉じた。

* * * * * *

山県の足はそのまま課長室に向かっていた。
居ても立っても居られず、
ノックもせずに入室する。

流石の木暮も面食らったらしいが、
直ぐに体勢を立て直していた。

「急用、だな。その様子だと」
「聞きたい事が有りまして」
「物に依っては応じられないぞ」
「…『空白の1年』について、ですが」

木暮は途端に表情を変えた。
眉間に深い皺が刻まれていく。

「約1名に関してはノーコメント」
「課長…」
「大将。多分お前さんが知りたいのは
 その男の事だろうが」

木暮は見抜いていた。
そう、いつかそんな時が来るだろう事は
遥か昔から予感していた。

「どうしても、駄目ですか?」
「知る必要は無い。
 いや…知った所で、もうどうにもならない」
「課長……」

「過去を知って、それを彼にどう説明するつもりだ?」
「それは……」

「彼が傷付くのは目に見えて明らかだろう。
 本人すら忘れたがっている出来事を
 第三者が干渉するべきじゃない」
「忘れたがってるんですか…」
「ハッキリとそう言った訳じゃないがな」

木暮は静かに席を立つと、
山県の右肩を2~3回軽く叩いた。

お題提供:[刑事好きに100のお題]
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